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臨床情報「子どもの外傷後ストレス障害(PTSD)」について

今回は、「子どもの外傷後ストレス障害」についてです。

外傷後ストレス障害(Posttraumaic Stress Disorder:PTSD)
 外傷後ストレス障害は幼小児期の虐待や自然災害のような過去の心的外傷体験に関連する不安症状を特徴とするものであり,典型的には認知,自律神経,行動に関する不安症状が含まれています。子どものPTSDの主な症状は,繰り返しおこる侵襲的な外傷的出来事の想起であり,具体的には外傷体験を再体験するフラッシュバック,悪夢,過覚醒,外傷体験に関連する刺激からの回避行動,睡眠障害,母親からの分離の困難,などです。また,集中困難や記銘力障害のような認知機能の障害も頻度が高い症状です。さらに未来が短縮し,自分自身の死が早く訪れるような感覚を訴えることもあります。以上の症状によって,PTSDは大きな苦痛を伴い,日常機能に著しい障害をきたします。

 DSM-Ⅳ-TRによるPTSDでは,再体験,回避,過覚醒の3つが中核症状とされています。一応,子どもには成人とは異なる症状が出現することを認めているものの,年齢にかかわらず成人と同一の診断基準を用いています。すなわち,再体験(criterion B)は外傷の主題を表現する反復的な遊びや,悪夢によって再現されます。回避(criterion C)は心的外傷に関する刺激を避ける,あるいは全般的に無感覚になります。過覚醒(criterion D)は覚醒度が持続的に亢進することであり,症状としては入眠困難や過度の驚愕反応などが含まれます。そしてCriterion B,C,Dの症状は1ヶ月以上継続しなくてはならず(criterion E),またPTSDと診断するためにはこれらの症状が臨床的に著しい苦痛を引き起こしており,子どもの機能を障害している必要があるとされています(criterion F)。

 さて,子どもの年齢や状況によって心的外傷の影響は異なる結果をもたらし,たとえ子どもがPTSDの診断基準を完全に満たしていない場合でも著しい障害を呈することがあります。すなわちDSM-Ⅳ-TRに記載されているPTSDの症状は,心的外傷の結果苦しんでいる子どもには当てはまらない可能性があるために,彼らを漏れなく抽出するためには,DSM-Ⅳ-TRの診断基準のみに頼るべきではないと考えられています。特に乳幼児期の子どもは心的外傷に暴露した後,PTSDの症状をほとんど示さないこともまれではありません。このような状況を鑑みてScheeringaらは,乳幼児期の子どものPTSDを評価するための独自の診断基準を作成し,その有効性を検討しています。ScheeringaらのPTSDの診断基準の特徴は,第1に言語化だけでなく行動評価に焦点を当てた基準を加えたことと,第2に乳幼児に特異的と思われる症状(新しい恐怖症と攻撃性)を加えたものになっていること,です。彼らは虐待による心的外傷を受けたと考えられる乳幼児をこの診断基準を用いて評価し,その結果60%(DSM-Ⅳでは20%)がPTSDと診断されるとしています。また彼らは,PTSDの新しい診断基準の方がDSM-Ⅳのそれよりも評価者間信頼性が高いことを示しています。

 一方,本邦において青木らは乳幼児期のPTSDの症例を上述した両者の診断基準を用いて検討した結果,Scheeringaらの診断基準がDSM-Ⅳより有用であると結論づけており,さらに乳幼児期にも青年期や成人のPTSDの病理と類似の精神病理があることを強調しています。
 American Academy of Child and Adolescent PsychiatryはPTSDの治療の診療指針を作成しており,主な介入方法として,心理教育,個人療法(大部分は認知行動療法),家族療法,集団療法,薬物療法が含まれています。治療指標は1998年に作られたものの未だ改訂の途上であり,今のところ,成人に対する治療を子どもの発達段階に合わせて修正して行っているのが現状です。薬物療法に関しても二重盲検プラセボ対照比較試験の研究はなく,今後実施していく必要があります。

記事作成:加藤晃司(医療法人永朋会)
     専門:児童精神科(日本児童青年期精神医学会認定医、子どものこころ専門医)