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臨床情報「熱傷センターにおけるせん妄に対するblonanserin(BNS)の有効性について」

今回は、「熱傷センターにおけるせん妄に対するblonanserin(BNS)の有効性について」です。

熱傷はさまざまなストレス反応や代謝亢進状態を引き起こし,その他の外傷や重症疾患とは異なる病態である。さらに,受傷面積が広く,熱傷深度が深い場合には熱傷センターという特殊な環境で入院治療が続くためにせん妄,うつ症状,不安,不眠などさまざまな症状が出現する。また,熱傷の受傷機転が自殺企図の場合は全例精神科依頼となっている。特に熱傷センター入院後に出現したせん妄の管理・治療のための精神科依頼は多い。せん妄のために身体治療が遅れ,入院期間が延長することがあるため,せん妄に対する適切な診断,予防,治療を含めた精神医学的管理が必要であり,救命救急センターでの精神科リエゾンの重要性は高まってきている。

せん妄の治療には原因となっている身体疾患の探索と治療,環境調整などが最も重要である。しかし,熱傷センターで出現したせん妄は生命にかかわる問題となることがあり迅速に対応しなくてはいけないケースも多く,その場合には薬物療法も重要な治療選択肢の一つであると考えられる。

せん妄は軽度の意識障害を背景に,精神症状として気分障害,精神運動興奮,幻覚,認知機能障害,など多彩な病像を伴う意識変容を呈する病態である。せん妄は総合病院に入院した患者の約10%から30%に出現し,入院期間の遷延や死亡率を増加させる要因の一つである。特に,身体症状が重症な患者が多い集中治療室(Intensive Care Unit: ICU)ではせん妄の頻度が高く,入院患者の20%から80%に認められると報告されている。熱傷患者は長期間の呼吸器管理やBURNセンターやICUでの治療が続くことが多いためせん妄が発生するリスクが高い。Andreasenは熱傷患者の31%にせん妄が認められたと報告している。またAgarwalらは,人工呼吸器管理している熱傷患者の約80%にせん妄認めたと報告している。
せん妄の治療は,従来はhaloperidol(HPD)などの第1世代抗精神病薬(first-generation antipsychotics)の投与が中心であったが,近年は第2世代抗精神病薬(second-generation antipsychotics: SGA)の有効性に関する報告が増えてきており,特にrisperidone(RIS),olanzapine(OLZ),quetiapine,aripiprazole(APZ), perospirone,blonanserin4)などの有効性が報告されている。一方,ICUでのせん妄に対する第2世代抗精神病薬の有効性に関してはOLZ,BNSにおいて報告されている。

我々は救命救急センター熱傷センターに入院となりせん妄と診断され抗精神病薬による治療を受けた患者(連続サンプル)を対象として,BNSを投与した群とRISを投与した群の2群に分けて比較を行い,BNSの有効性と安全性について後方視的に調査を行った。

せん妄はICUに入院となった患者の20%から80%の患者に認められ,さまざまな症状が出現し,せん妄の発生自体がICU患者の予後に大きく影響し,入院期間の延長や6カ月後の生存率を低下させる危険因子であることが明らかになってきており,適切な診断や管理が重要になってきている。しかし熱傷センターにおけるせん妄の頻度や治療の報告はほとんど認められていない。熱傷センターの患者はⅡ度やⅢ度の熱傷範囲が広く,身体的重症度が高い。植皮のための手術も何度も行われる場合がある。熱傷センターは感覚の遮断が強く,刺激が入りにくい。そしてせん妄のリスクとなるベンゾジアセピン系抗不安薬やオピオイドなどの鎮痛剤を使用する頻度が高いため,せん妄の発生は一般病棟と比較すると高いと考えられる。せん妄は過活動型せん妄,低活動型せん妄,混合型せん妄に分類される。一般病棟でのせん妄のサブタイプと熱傷におけるサブタイプの出現頻度はやや異なっている。O’keeffeらの報告では一般病棟の94名を対象とした調査で,過活動型せん妄(21%),低活動型せん妄(29%),混合型せん妄(43%)となっており,混合型が多かった。Agarwalらの報告では,低活動型せん妄(71%),混合型せん妄(22%),過活動型せん妄(6%)であり,低活動型せん妄が多かった。本研究では,せん妄のサブタイプは,過活動型せん妄(20.0%),混合型せん妄(70.0%),低活動型(10.0%)であり,混合型せん妄が最も多かった。Agarwalらの報告と比べると両群共に低活動型せん妄の頻度が少ないが,おそらく低活動型せん妄に関しては精神科に依頼となるケースが少ないため頻度が低くなっており,実際には依頼されていない患者に低活動型せん妄が出現している可能性はあると考えられる。低活動型せん妄は,初期には症状が病的とみなされずに見逃されやすいが進行すると過活動型せん妄の症状が混在してきて転倒や点滴ライン,胃管,腹腔ドレーン,気管挿管チューブの抜去など生命に関わる偶発的事故を引き起こす可能性があるため,早期に発見し経過に注意する必要がある。
せん妄の原因はまだはっきりとは解明されていないが,身体疾患や薬物などの身体的要因,感覚遮断や体動困難などの環境要因,高齢や認知症などの個人的要因,など様々な要因がせん妄の発症に関与していると考えられている。せん妄の治療には原因となっている身体疾患の探索と治療,環境調整などが最も重要である。しかし,熱傷センターで出現したせん妄は生命にかかわる問題となることがあり迅速に対応しなくてはいけないケースも多く,その場合には薬物療法も重要な治療選択肢の一つであると考えられる。せん妄により精神運動興奮,焦燥,幻覚,妄想が出現している場合には対症療法として抗精神病薬の投与を行う必要があると考えられる。
せん妄に対するSGAの有効性はいままでに多数報告されている。BNSは本邦で開発された新規抗精神病薬であり,ドパミンD2及びセロトニン5-HT2A受容体を強力に遮断する。また,ドパミンD1,セロトニン5-HT2C,アドレナリンα1,ヒスタミンH1,ムスカリンM1受容体遮断作用は弱く,受容体の選択性が高いという薬理プロフィールを持つ。ブロナンセリンは他の第二世代の抗精神病薬(second-generation antipsychotics)と異なり,セロトニン5-HA2AよりドパミンD2受容体への親和性が高いという特徴を有する薬剤である。本邦で実施されたリスパダールを対照に多施設共同無作為化二重盲検比較試験では,有害事象の発現はリスペリドンと同等であり,第二世代抗精神病薬で問題となる錐体外路系症状,糖尿病性昏睡・ケトアシドーシス,QT延長のリスクはリスペリドンとほぼ同じで,アカシジアや易興奮性の発現はブロナンセリンが高かったが,血中プロラクチン増加,体重減少,食欲亢進,起立性低血圧のリスクはリスペリドンより低かった。以上よりブロナンセリンはリスペリドンと同等の有効性とやや異なる安全性プロフィールを有している。
BNSに関しては症例報告やオープン試験において有効性が証明されている。一方,ICUにおけるせん妄に対するSGAの有効性に関する報告は,OLZ,APZ,BNSのみ報告されている。本邦における熱傷センターでのせん妄に対するSGAの有効性については報告されていない。
本研究において,BNS投与によりMDASのスコアが18.2±2.2 (治療開始時)から9.4±2.3 (治療終了時)に減少しており,統計学的に有意差を認めた(P<0.05)。MDASの改善率は48.9±6.8%であり,RIS群との有意差はなく効果は同等であった。平均投与期間も両群で有意差はなかった。また副作用に関して,傾眠のみBNS群で出現率が低かったが有意差は認めなかった。このことは,このことは,BNSが他のSGAに認められるヒスタミンH1,ムスカリンM1,アドレナリンα1,セロトニン5-HT2Cといった受容体への親和性は低いため過鎮静が少ないためと考えられ,過鎮静が少ないためと考えられる。過鎮静はふらつき,めまい,立ちくらみなどの原因となり,転倒などの危険性もあり,高齢者では特にリスクが高い。また,過鎮静は身体疾患の治療をさまたげ,重症化させる危険性がある。熱傷センターに入院となる患者は重度の身体疾患の患者が多く,本研究でもBIやPBIの値は両群において高かった。投与期間について,著者らが救命救急センターICUで行った後方視的研究ではBNSの平均治療期間は6.9±5.0日であった。本研究での熱傷センターでの平均治療期間は27.2±14.6であり救命救急センターICUと比べると長かった。これは熱傷患者は身体的重症度が高く,熱傷センターでの治療期間が平均56.8±29.1と長期となっていることが影響していると考えられる。投与量については,先行研究では初期開始量5.17±1.8mg/日,最大投与量9.50±2.1mg/日であり,本研究でもほぼ同じ容量であった。本研究の結果から,熱傷センターに入院となっている身体的に重症な患者のせん妄に対して鎮静作用が少ないBNSは比較的安全に使用でき,有効である可能性があると考えられる。しかしBNS群では過活動型せん妄は20.0%であり,有意差は認めないもののRIS群よりも少なかった。BNSは鎮静作用が少ないため過活動型せん妄へは効果不十分となる可能性も考えられるため,今後さらなる検討が必要である。


<コメント>
熱傷センターに限らず、救命救急センターでのせん妄治療は、救命医により身体治療を妨げないようにやる必要がある。せん妄治療は、抗精神病薬を使用することが多いが、どうしてもドパミンをブロックするために鎮静が起きてしまうことがある。これは身体症状が重篤な場合、過剰な鎮静はさけなくてはいけない副作用の一つとなります。もちろんせん妄状態が続くこと自体で身体治療へ悪影響がある場合には、抗精神病薬を使用しなくてはいかないこともありますが、非鎮静系の薬剤を選択する必要があると思います。現在国内で使用可能な非鎮静系の抗精神病薬としては、APZやBNSがあり、我々もいくつか臨床研究データを出していますが、比較的使用しやすいのではないかと考えています。


記事作成:加藤晃司(医療法人永朋会)
     専門:児童精神科(日本精神神経学会専門医、日本児童青年期精神医学会認定医、子どものこころ専門医)