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臨床情報「広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)の病態水準について」

広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)の病態水準について

まずはおさらいで、DSMでの広汎性発達障害の診断についてです。
発達障害は,精神遅滞(mental retardation),学習障害(learning disorders),運動能力障害(motor skills disorder),コミュニケーション障害(communication disorders),広汎性発達障害(pervasive developmental disorders;PDD)に分けられます。

<診断基準>
 最初に国際的な診断分類によって,PDDの概念を整理します。精神医学における国際的な診断分類には,アメリカ精神医学会の診断統計マニュアル第4版(DSM-Ⅳ-TR)(American Psychiatric Association, 2000)と世界保健機関の国際疾病分類第10版(ICD-10)があり,基本的にはどちらかの診断基準に基づき日常臨床と研究は進められています。この両者は改訂を重ね,最新版では各疾患について類似した内容となっています。

<DSM-Ⅳ-TRによるPDD>
PDDは発達のいくつかの面における重症で広範な障害として特徴づけられ,DSM-Ⅳ-TRでは自閉性障害,レット障害,小児期崩壊性障害,アスペルガー障害,特定不能の広汎性発達障害(PDDNOS)に分けられています。PDDとは,①相互性対人関係の質的な問題,②コミュニケーションの質的な問題,③行動・興味の限定的,反復的で常同的な様式,の3つの領域に障害があることで特徴づけられます。


私が研修医終了後に入局した東海大学の精神科教室では、診断・治療は①DSMでの横断的な診断、②病態水準、の2軸でするようにと教えていました。

今でもその時の考え方を利用して、日常の診察に向き合っています。
この前、レクシャーで上記の話をしていたら、発達障害にも同じようにやるのですか?と質問がありました。

もちろん発達障害自体は生来の障害ですが、精神病態はそれぞれで異なっています。神経症~精神病態まで区別する必要があり、発達障害自体の診断には関係ないですが、その人自体のアセスメントとしては非常に重要です。それは病態が異なれば精神療法的なアプローチは変わってくると思いますし、症状の出かたも異なってきます。
またうつ病、不安障害、気分障害、統合失調症などの疾患が合併した時に、病態が分かっていないとどちらが主病態なのか判断するのが難しくなります。

例えば非常に妄想的な発言が増えてきた時に、もともと病態の悪いPDDであれば一時的な症状として精神病症状がでることがありますが、そうでなくて病態が軽いのであればうつ病や統合失調症など、異なる疾患が合併した可能性を考え、除外診断をしなくてはいけません。

例えば成人した方が一人で受診された場合、もし病態水準が重たいなら、本人が同意すれば母親(養育者)の方とお会いし、直接生育歴を確認した方がいいでしょう。どのように生きてきたのかが分からないと、これからどのような生き方をしていくのか予測ができなくなってしまいます。また見立てをしておかなければ、途中で治療がうまくいかなくなった時、いつ、どの部分を見誤ったのかあとで振り返ることができなくなってしまいます。治療の軌道修正するためにも、過去の整理、横断的な診断、病態水準の見立て、未来の予測、これらを同時に行っておいた方がいいでしょう。

つらつらと書いてきましたが、今回のテーマは発達障害の病態水準とテーマ決めましたが、本来はどの疾患でもDMSでの横断的な診断、病態水準の評価は必要です。病態水準を判断するためには、最低限の生育歴の情報は必要となります。症状ではなく、その人自体を診る、という心構えはいるのだろうと思います。

記事作成:加藤晃司(医療法人永朋会)
     専門:児童精神科(日本精神神経学会専門医、日本児童青年期精神医学会認定医、子どものこころ専門医)