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臨床情報「注意欠如多動性障害(ADHD)の鑑別と医学的検査」

今回は、「注意欠如多動性障害(ADHD)の鑑別と医学的検査」についてです。

注意欠如・多動性障害(attention-deficit/hyperactivity disorder;ADHD)は頻度が高く,遺伝性の高い疾患であり,子どもの3-9%,そして成人では約2%に認められる疾患です。ADHD症状は幼児期早期から出現し,不注意,多動・衝動性の症状によって特徴づけられます。ADHD症状の一部は思春期や成人になっても持続して認められることが多く,これらの症状のために学業や職業などの社会機能に著しい障害をきたすことがあります。また,幼児期早期から始まるADHD症状は慢性的に持続し,ADHDの中核症状と並んで情動不安定性が認められることが多く,パーソナリティ障害や気分障害などの精神疾患と誤診をする可能性があります。さらに,ADHDはアルコール依存や薬物依存,反社会的行動,不安,抑うつ,学習障害,などの精神疾患を合併するリスクが高いといわれています。

<ADHDの診断評価について>
・初診~2・3回目の診察
主訴、問題の経過、相談歴、これまでの対処法、発達歴(広汎性発達障害の可能性の検討)、既往歴、家族歴、環境の評価(家族・学校等)

チェックリスト、行動評価尺度(親に依頼、学校へ依頼)による評価
行動評価尺度:ADHD Rating Scale‐Ⅳ、Conners Rating Scale-Revised、SNAP-Ⅳ Rating Scale など
チェックリスト:子どもの行動チェックリスト(親用:CBCL、教師用:TRF)など

知能、学習能力の評価(WISC-Ⅲ、K-ABC、田中ビネー、描画テストなど)

医学的検査(脳波、CT、MRIなど)

上記診療や検査で得られた情報による包括的な診断

診断について親子への伝達、治療計画の提案、学校との連携

という流れになるかと思います。


<ADHDに併存が認められやすい精神疾患>
 行動障害群
 ➢ 反抗挑戦性障害(Oppositional Defiant Disorder; ODD)、
   行為障害(Conduct Disorder; CD) など   
● 情緒的障害群(情緒上の障害)
 ➢ 強迫性障害、適応障害、気分障害 など  
● 神経性習癖群
 ➢ 排泄障害、チック障害 など
● 発達障害群
 ➢ 学習障害、運動能力障害、広汎性発達障害※ など    
      
 ※ DSM-Ⅳ-TRにおいて、ADHDと広汎性発達障害が認められる場合は、広汎性発達障害が優先され、ADHDの診断を付すことは認められていなかったが、DSM-ⅤではPDDとADHDの併存は認められるようになった。



<ADHDと鑑別を要する主な疾患>
・精神障害
広汎性発達障害
児童虐待
うつ病・双極性障害
気分変調性障害
分離不安障害
全般性不安障害
外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder; PTSD)
チック障害・トウレット障害(トウレット症候群、Tourette症候群)
統合失調症
・気質性の行動
癇の強い子どもが要求が通らなかったときなどに反応性に起こす行動
・身体疾患・神経疾患
てんかん
神経疾患(先天性代謝疾患、脳変性症、脳炎、等)
アトピー性皮膚炎
気管支喘息(気管支拡張剤の影響)
アデノイド
聴覚障害
甲状腺機能亢進症


ここで忘れがちなのは身体疾患・神経疾患の鑑別です。精神科ですとどうしても体の検査ができない病院が多いため見逃されがちです。脳波、CT、MRI、採血でわかることが多いですので初期に鑑別するべきかなと思います。


<知能・学習能力の評価>
● WISC-Ⅲ知能検査
 ➢ 全般的な知的発達を表す全検査IQのほか、言語性IQ、動作性IQ、「言語理解」「知覚統合」
   「注意記憶」「処理速度」の4種類の群指数などによって情報処理特性を測定。
 ➢ 5歳0ヵ月~16歳11ヵ月に適用。  

● K-ABC心理・教育アセスメントバッテリー
 ➢ 「継次処理」「同時処理」およびそれらから求めた「認知処理過程」「習得度」という4種類の
   総合尺度から分析。
 ➢ 2歳6ヵ月~12歳11ヵ月に適用。  

● 田中ビネー知能検査Ⅴ
 ➢ 2~13歳までの子どもでは精神年齢を求め、比率IQを求める方法で全般的な知能水準を
   評価。
 ➢ 2歳~成人に適用。  

知能・学習能力の評価も早い段階で行っておく方がいい検査の一つです。DSMの診断は心理検査を行わなくても確定診断できますが、やはり全体的な知的能力は評価しておいた方がいいでしょう。それにより学校や自宅での支援の仕方も変わってきます。


<鑑別診断のための医学的検査>
●脳波
● CT
● MRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像法)  
● 視力、聴力検査
● 内分泌検査(とくに甲状腺ホルモン)  
● SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography:単光子放射線コンピュータ
断層撮影)
● PET(Positron Emission Tomography:ポジトロン断層法)
● fMRI(functional magnetic Resonance Imaging:機能的磁気共鳴画像法)
● CPT(Continuous Performance Test:持続処理課題)


これらをすべてやる必要はないですが、なんらかの症状がある場合には医学的検査を行う必要があります。またADHD薬の内服をもし行うのであれば、脳波検査は行っておいた方がいいでしょう。脳波異常があると使いにくい薬があります。


記事作成:加藤晃司(医療法人永朋会)
     専門:児童精神科(日本精神神経学会専門医、日本児童青年期精神医学会認定医、子どものこころ専門医)