臨床情報「小児期の注意欠如・多動性障害(attention-deficit/hyperactivity disorder;ADHD)の診断について①」
今回は、「小児期の注意欠如・多動性障害(attention-deficit/hyperactivity disorder;ADHD)の診断について①」です。
ADHD症状は幼児期早期から出現し,不注意,多動・衝動性の症状によって特徴づけられます。ADHD症状の一部は思春期や成人になっても持続して認められることが多く,これらの症状のために学業や職業などの社会機能に著しい障害をきたすことがあります。また,幼児期早期から始まるADHD症状は慢性的に持続し,ADHDの中核症状と並んで情動不安定性が認められることが多く,パーソナリティ障害や気分障害などの精神疾患と誤診をする可能性があります。
<診断基準>
精神医学における国際的な診断分類には,アメリカ精神医学会の診断統計マニュアル第4版(DSM-Ⅳ-TR)と世界保健機関の国際疾病分類第10版(ICD-10)があり,基本的にはどちらかの診断基準に基づき日常臨床と研究は進められている。この両者は改訂を重ね,最新版では各疾患について類似した内容となっています。DSM-Ⅴがでていますが、Ⅳの方が私個人的には使いやすいと思いますので、Ⅳの内容から記載しています。
・DSM-Ⅳ-TRによるADHD
ADHDとは,不注意,多動性,および衝動性を主症状とした障害です。診断のポイントとしては,B項目にあるように不注意,多動性,衝動性の症状のいくつかが,7歳未満に存在してそれらによって障害を引き起こしていること,さらにC項目にあるように症状が2つ以上の状況で認められること,さらにE項目にあるように広汎性発達障害(pervasive developmental disorders;PDD)を除外することが必要となります。PDDはDSM-Ⅴでは診断としては併存可能となっていますが、ADHD単独例とADHD+PDD合併例では治療が異なってきますので、基本的には分けて考えた方が臨床上は良いだろうと思います。
また,サブタイプとして,不注意優勢型,多動性・衝動性優勢型,混合型の3つを規定しています。そして,DSM-Ⅳ-TRでは不注意優勢型と診断するためには9つの不注意症状のうち6つを,多動-衝動性優勢型と診断するためには9つの多動-衝動性症状のうち6つを,混合型と診断するためには6つの不注意症状と6つの多動/衝動性の症状が存在することが少なくとも6カ月間持続する必要があります。
<診断上の問題>
・学童期・思春期での診断
ADHDの診断には,上述のように7歳未満の情報が必要であり,幼児期の行動に関してADHDの診断基準の表現には,「しばしば“エンジンで動かされるように”行動する」などのように表現されています。またPDDの診断が優先することから3歳までの情報も必要となるために,臨床家にはPDDを診断する能力が求められることになります。
このように,幼児期の患者を知っている者からの生育歴の聴取と,患者本人との面接からADHDの確定診断をします。そのため現在の養育者が就学以前の情報を知らない場合や養育者の記憶があいまいな場合は確定診断が困難なことがあります。
さらに,ADHDの不注意優勢型に関しては,7歳未満に症状が明らかな障害は見られない場合が多いとする報告があり,幼児期早期には気づかれず,中学や高校に進学後に症状が明らかになることがあります。また,患者自身が子どもの時の行動を評価する自己記入式スケールを行う場合に,10-12歳以前の行動に対しては正確に評価することがほとんどできないとの報告もあり,不注意優勢型に関しては7歳未満という基準を厳格に適用すべきではないとする考えもあります。
さらに,DSM-Ⅳ-TRではADHDとPDDとの合併が許されていないが,高機能広汎性発達障害(high function pervasive developmental disorder;HFPDD)の子どもが同時にADHDの診断基準を満たす症状を呈することは珍しいことではないため,今後PDDとADHDとの合併については見直す必要がある問題であると考えられる。
このようなことがあり、DSM-ⅤではADHDの診断基準では、12歳までに症状が確認できること、PDDの合併を認める、こととなりました。しかし診断がつきやすくなれば過剰診断につながる可能性もありますから、このあたりはより慎重に行う必要があると思います。
記事作成:加藤 晃司(医療法人永朋会)