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強迫性障害、子どもと大人の違いについて、名古屋の児童精神科医が解説

強迫性障害、子どもと大人の違いについて、名古屋の児童精神科医が解説

こんにちは、名古屋市千種区 児童精神科専門クリニック、医療法人永朋会 和光医院、加藤晃司です。

今回は、強迫性障害、子どもと大人の違いについて、解説します。

強迫性障害(OCD: Obsessive-Compulsive Disorder)は、子どもと大人の両方に見られる心理的な疾患ですが、症状の現れ方や認識、対応の仕方に違いがあります。OCDは、強迫観念(繰り返し考えてしまう不安や恐怖)と、それに対する強迫行為(不安を和らげるために繰り返す行動や思考)を特徴とし、生活に支障をきたすことがあります。

以下に、子どものOCDと大人のOCDの違いについて、具体的に説明します。

1. 症状の発現の仕方
a. 子どもの強迫性障害
症状の認識が難しい:子どもは自分の思考や行動に対して、何が「正常」で何が「異常」かを大人ほど理解していないため、強迫観念や強迫行為を持っていても、それを自覚できないことがあります。大人のように「自分の考えが不合理だ」と気づくことが少なく、強迫行為が自然な行動だと思っていることが多いです。

症状が遊びに見えることがある:子どもの強迫行為は、大人から見ると一見遊びや癖のように見えることがあるため、OCDの診断が遅れる場合があります。例えば、物を繰り返し並べたり、特定の順序で物事を行わないと不安になる行動などです。
家族や環境への依存が強い:子どもは、強迫行為に対して自分一人で対処することが難しいため、親や周囲の人に依存することがあります。たとえば、「これが汚れているかどうか教えて」といった形で確認を繰り返すことがあります。親がその確認を手伝うことで、症状が強化されることもあります。

b. 大人の強迫性障害
自分の症状に気づきやすい:大人は強迫観念や強迫行為が「不合理だ」と感じることが多く、自分の考えや行動が過度であると自覚しています。しかし、それでも不安を抑えるために強迫行為をやめられないという苦しみを抱えています。

社会生活に大きな影響を及ぼす:大人のOCDは、職場や家庭での役割を果たす際に支障をきたすことが多く、生活の質に大きな影響を与えます。特に、時間を大量に費やす強迫行為があると、日常生活が機能しなくなる場合があります。
隠す傾向がある:大人は、自分の行動が他人にどう見られるかを気にするため、強迫行為を隠そうとすることが多いです。その結果、治療が遅れることがあります。

2. 症状の種類
a. 子どもの場合
子どものOCDの強迫観念は、大人と同様に多岐にわたりますが、特に汚染恐怖や確認行為、対称性の追求が目立ちます。具体的には、手が汚れていると感じて何度も手を洗ったり、物の配置が「正しい位置」でないと不安になったりします。
子どもは、強迫観念が「魔法的思考」と結びつくことがあり、「もしこの順序で行動しないと、家族が病気になる」などの考えにとらわれることがあります。

b. 大人の場合
大人のOCDでは、子どもの症状に加え、攻撃的な思考や道徳的な問題に関連する強迫観念が見られることがあります。たとえば、「自分が他人に危害を加えてしまうのではないか」や「不道徳なことを考えてしまっている」という不安が強くなることがあります。
性的な強迫観念も大人に多い症状の一つです。これは、不安を引き起こす強迫観念が性的な内容を含むことがあり、これに関連した強迫行為が生じることがあります。

3. 治療への反応やアプローチの違い
a. 子どもの治療
行動療法が効果的:子どもに対しては、認知行動療法(CBT)、特に**曝露反応妨害法(ERP)**が有効です。この治療法では、子どもを強迫観念に曝露させ、強迫行為を行わずに不安に対処する方法を学びます。子どもは行動ベースで治療に取り組むことが多いため、保護者の協力が重要です。
親や家族の協力が必要:子どもの場合、親が子どもの強迫行為を助長してしまうことが多いです(例えば、子どもが汚染を恐れている場合に、親が頻繁に清潔なタオルを用意するなど)。そのため、親も治療の一環として、子どもが強迫行為に頼らないようにサポートする方法を学ぶことが重要です。

b. 大人の治療
認知行動療法と薬物療法の併用:大人のOCD治療でも**認知行動療法(CBT)や曝露反応妨害法(ERP)**が有効です。しかし、大人の場合は、症状が慢性化していることが多いため、**抗うつ薬(SSRI)**などの薬物療法を併用することが一般的です。薬物療法は、不安を軽減し、認知行動療法を受けやすくするために役立ちます。
認知の修正が重要:大人は強迫観念が不合理だと理解している場合でも、強迫行為をやめられないというジレンマを抱えています。認知行動療法では、このような思考の歪みを修正するためのアプローチが重要です。

4. 進行や重症度の違い
a. 子どもの場合
子どものOCDは、早期に適切な治療を受けることで、症状が大幅に軽減することがあります。特に、環境的要因(学校や家庭のストレス)によって一時的に症状が悪化することもありますが、適切な対応が早ければ早いほど、長期的な悪化を防ぐことができます。

b. 大人の場合
大人のOCDは、慢性化しやすく、適切な治療を受けない場合、長期間にわたって生活に大きな影響を与えることがあります。長期間強迫行為を繰り返すことによって、仕事や人間関係に支障をきたし、うつ病などの二次的な問題を引き起こすこともあります。

5. 周囲のサポートの違い
a. 子どもの場合
子どもの場合、家族、特に親のサポートが不可欠です。親が子どもの強迫行為を理解し、適切に対応することで、症状を緩和することが可能です。また、学校でのサポートも重要で、教師やカウンセラーが子どもの症状に気づき、適切な環境を提供することが求められます。

b. 大人の場合
大人の場合、家族やパートナーの理解が重要ですが、周囲の人に対して自分の症状をオープンに話すことが難しい場合があります。そのため、家族が強迫行為の悪循環に巻き込まれないよう、支援のバランスが大切です。また、職場や日常生活での支援を得ることも重要ですが、OCDを隠そうとする傾向があるため、早期の治療がカギとなります。

まとめ
子どものOCDと大人のOCDには、症状の認識、表現、治療法への反応に違いがあります。子どもは自分の症状に気づきにくく、家族や周囲のサポートが重要なのに対し、大人は自分の症状を自覚しているものの、隠す傾向が強いことがあります。また、治療法においても、子どもは行動療法が主流で、親の協力が欠かせないのに対し、大人は薬物療法と認知行動療法の併用が効果的です。

いずれの場合も、早期の発見と適切な治療が、長期的な症状の軽減や改善に大きく貢献します。

医療法人永朋会 和光医院
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