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臨床情報「Neuropsychiatric systemic lupus erythematosus (NPSLE)に伴う精神症状について」

今回は、「Neuropsychiatric systemic lupus erythematosus (NPSLE)に伴う精神症状について」です。

私の論文から一部抜粋しています。

全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: 以下SLE)は全身を侵す自己免疫疾患であり,中枢神経系は侵される頻度の多い標的臓器の一つである。SLEのうち神経精神症状を呈するものは中枢神経ループス(Central nervous system lupus: 以下CNS lupus),あるいはneuropsychiatric SLE(以下NPSLE)と呼ばれている。このうち意識障害,脳血管障害,けいれん重積発作,重症精神病エピソードを伴う症例は難治性病態とされている。

Ⅰ. NPSLEについて
1.NPSLEの疫学について
SLEに合併するNPSLEの頻度は報告により差があるが14~75%と報告されている。神経症状と精神症状に分けると神経症状を呈するものは10~35%,精神症状を呈するものは35%~60%と報告されている。NPSLEの中で難治性病態とされているものとしては意識障害,けいれん重積発作,広範囲な脳血管障害,重度の精神病エピソードなどがあげられている。

2.NPSLEの発症機序について
NPSLEの発症機序は今のところ不明であるが,いくつかが仮説として考えられている。血管炎による脳血管障害・脳血流障害,自己抗体仮説,脈絡膜への免疫複合体の沈着,cytokine作用 が原因と考えられている。現在では複数の要因が複雑に関与しているものと考えられている。

3.NPSLEの症状について
SLEの中枢神経症状は,1994年にアメリカリウマチ協会(American College of Rheumatology:ACR)が新分類を発表している。ACRはSLEの中枢神経症状を局所徴候を主としたneurologic syndromeとびまん性徴候を主としたdiffuse psychiatric syndromesの二つに分類し,後者には,acute confusional state, anxiety dysfunction,cognitive disorder,mood disorder,psychosisの5つが含まれている。

4.NPSLEの検査,診断について
NPSLEの診断については,疾患に特異的な所見を欠くため,明確な診断基準が存在しない。診断は身体所見,免疫検査,画像所見等を集約的に行い,総合的に行う。現在は表3 の検査が診断に有用であると考えられている。NPSLEの活動性の指標としてはIgG index,髄液中のIL-6,IFN-αの上昇が報告されている7)。IgG indexの上昇は血液脳関門の障害を示唆し,NPSLEを合併したSLE患者において上昇する。IL-6,IFN-αも精神症状を示すSLE患者において上昇することが明らかにされている。画像診断では頭部MRI,SPECTが有用である。頭部MRIではT2,FLAIR強調画像で高信号を示し,活動性病変がガドリニウムで造影されることがある。SPECTでは大脳皮質の血流低下を認め,CT,MRIより感度が高いといわれている。また脳波検査では基礎律動の徐波化や棘波の出現が症状に並行して変化し,診断,治療効果の判断のよい指標となる。

5.NPSLEの治療について
NPSLEの治療の原則はSLEの活動性を早急に抑えること,神経精神症状に対し適切な補助療法を行うことである。SLEの活動性を早急に抑えるためにはステロイド大量療法を行い,効果の認められない場合にはパルス療法を施行する。難治性の場合にはCPAなどの免疫抑制剤を併用する。発症予防のために抗凝固療法(aspirinなど)、抗血栓療法(warfarinなど)の投与を併用することもある。神経精神症状に対する補助療法としては抗精神病薬,抗うつ薬,抗不安薬,抗けいれん薬による対症療法を行う。
NPSLEに対する抗精神病薬の使用についてはいくつか海外で報告されている。内科的治療にて神経精神症状が改善しない場合,例えばせん妄や精神病様状態に対してはhaloperidolが有効との報告がある。非定型抗精神病薬の有効性が報告されているが,どの非定型抗精神病薬がもっとも有効かといった報告はない。症例報告としてはNPSLEのacute confusional stateに対しRISが有効であったという報告やNPSLEのpsychosisに対しOLZ 7.5mg/日が有効であったという報告がある。

記事作成:加藤晃司(医療法人永朋会)
     専門:児童精神科(日本精神神経学会専門医、日本児童青年期精神医学会認定医、子どものこころ専門医)