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臨床情報「広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders:PDD)の就労に必要なもの」

「医療の立場から考える」
広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders:PDD)の就労に必要なもの


今回のテーマは上記です。
これは私が講演で話したテーマで、全体の中から一部抜粋してまとめました。


職業選択、しいては仕事が人生においてどんな意味を持つのかはPDDの人に限らず、すべての人にとって大きな課題です。人生における仕事の価値とか、各人異なっていていいからです。お金を稼ぐために仕事をする人もいれば、やりたいことをしたいという人がいてもいいのです。
臨床現場で出会うPDDの方に対して、職業にむけてなんらかのトレーニングをする場合には、上記のようなことをまずは最初に明確にしたのちに就労訓練に入るようにしています。

ではまずはPDDについてのおさらいです。この医療記事でもなんどもPDDについてはでてきていますが、大事な部分は重複しますが記載させていただきます。

PDDの種類について。DSM-Ⅳ-TRでは大きく分けると三つに分かれます。
・自閉性障害:Autistic Disorder
・アスペルガー障害:Asperger's Disorder
・特定不能の広汎性発達障害:PDD Not Otherwise Specified

どの疾患にも中核症状と周辺症状があります。PDDの中核症状は難しい表現ですが、「対人相互性の障害」と呼ばれるものです。これは他者の心の理解が苦手なことにつながってきます。また他者が考えていることや状況理解する力を獲得することを、「心の理論」を通過するとも表現します。

今回のテーマでは以下PDDと記載している部分は、自閉性障害を除いた、アスペルガー障害、PDDNOSの方を想定しています。

<中核症状は対人相互性の障害がある日常生活でどのようなことで困るか>
他者とその場での興味や注意を共有することが苦手
(スムースなコミュニケーションが困難)
・社会的に孤立しているが、本人は孤立していることを気にかけないことがある
・同年代の友人関係を維持し発展させることが困難なことがある
・社会的なサインの理解が困難で、ふさわしくない行動を取ってしまうことがある
・他者の接近や要求に対処しようとすると緊張し苦痛を伴うことがある

<心の理論の障害がもたらすもの>
・他者の意図を読み取ったり、その行動に隠されている動悸を理解することが困難。
・自分自身の行動を説明することが困難。
・自分自身や他者の感情を理解するのが困難 なため、共感性の欠如が生じる。
・自分の行動が他者の考えや感情に影響を及ぼすことを理解することが困難なため、善悪の判断や、相手を喜ばせようとする動機付けが欠如。
・他者が何を知っていて何を知らないかを考慮するのが困難なため、杓子定規な言葉、あるいは不可解なことばを話す。

これらの特徴を踏まえた上で、「PDDは社会人としてどのような支障が生じやすいか?」について考えてみます。

<社会における人間関係はとても複雑>
・社員として生きていくためには、地位、年齢、会話が行われる状況や立場などに応じて0言葉遣いを使い分けなければならない。
・要求される仕事にも期限が与えられ、目標の達成度が個人成績として公表される。
・同時に複数の仕事を与えられる。
・さほど優れていない商品でもすばらしい点を宣伝し、いっこうに楽しくなくても笑顔で対応し、客からのクレームには自分に責任がなくても頭を深々と下げて謝らなければいけない。
・上司のつまらない話にも、頷きながら聞いて関心する必要がある。

上記のような日本おいて社会人として常識だと思われていることも、PDDの方にとっては想像以上に困難を感じることがあります。


<就労での問題>
(1) 職業選択
 PDDの人は物事に強いこだわりを持つため、その興味の対象がそのまま職業に結びつくとこれほど強いことはありません。学者や研究者になれば優秀なことも多く、多少の対人関係のハンディキャップを埋めることができます。
 しかし職業につながるような強い興味がないことの方が多く、この場合こだわりは裏目にでることがあります。
 ①こだわりのために先に仕事が進まず、仕事がどんどん遅れる
 ②ちょっとした仕事内容の変更にも臨機応変に対応できない
→パターン化することで乗り切ったり、同じ仕事を続けることで知識と経験が蓄積しできるようになることがあります。うまくいかない場合には職場の環境調節が必要、それでもだめなら職業自体を変える必要があります。

(2)就労において大事なのは、自分の苦手な部分が何なのかを理解していることです
(3)PDDの人は社会参加が苦手だが、社会参加が嫌いなわけではない。適切な就労で精神状態も安定することがありますので、あきらめてはいけません。就労支援を受けている場合、ジョブコーチが職場まで直接行って、環境調整の手伝いをしてくれることがあります。

<高機能広汎性発達障害と就労困難>
PDDの方が苦手な場面、苦手な事柄は以下のようなものがあります。
・場面に応じた言葉遣い
・上司の指示を字義通りに理解
・正論を押し通す
・視覚と運動の協応
・並列作業の困難
・作業環境の騒音
・同一の視覚パターンの反復
・臨機応変の対応の要求
・就労時間が長い
・休憩の頻度が少ない
・実現不能なノルマ設定
もちろん各人それぞれ苦手なことは異なりますが、一般化すれば上記ようなことが苦手なことが多く、環境整備する場合には何がもっとも苦手なのか支援者は理解した上でサポートする必要があります。


コミュニケーションの苦手さを克服するためにできることはあるか?

<ソーシャルスキルトレーニング(SST)>
クリニックや、就労移行支援事業所で個別、集団のソーシャルスキルトレーニングを行っています。
仕事するようになってからコミュニケーションで困ることがでてきた方は、対人相互性の障害の程度が低いため、1対1の場面では問題ないが、集団になると話がずれてしまったり、話の内容が頭に入ってこない、ということが起こることがあります。
その場合には1対1でSSTはやらず、最初からグループSSTをやる場合もあります。しかし1対1でのカウンセリングは自己分析をすすめるために役立つことがありますので、SSTは集団でやりつつ、カウンセリングは1対1でやるというパターンもあります。

最終的にはどんなにトレーニング場面でうまくいったとしても、実際の職場でうまくいかなければ意味がありません。
最後は実務をしながら、そのリアルな場面でできた問題点を、カウンセラーやジョブコーチにフィードバックしてもらいながら、PDCAを回して自分自身の苦手さを克服していくことになります。

記事作成:加藤晃司(医療法人永朋会)
     専門:児童精神科(日本精神神経学会専門医、日本児童青年期精神医学会認定医、子どものこころ専門医)