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臨床情報「薬物依存について」①

今回は、「薬物依存症について」①です。

私の講義内容から一部抜粋しています。


【総論】

<はじめに>
本邦における薬物事犯の検挙者数は年間で1万5千人以上にのぼり,薬物乱用および薬物依存問題は深刻な状況である。覚せい剤に加え,常在麻薬である3,4-methylenedioxymethamphetamin(MDMA)や大麻の乱用が拡大しており,乱用薬物の多様化という問題が顕在化している。
こうした薬物は,さまざまな法律により厳格に規制されている。

青少年における覚せい剤事犯の検挙人員は減少傾向にあるものの、大麻、MDMA 等合成麻薬事犯の検挙人員の6割~7割を未成年者及び20歳代の若年層が占めており、青少年を中心に乱用されている状況がうかがわれる。
また近年、大学生等若者による大麻の所持や不正栽培による事件が数多く報道され、社会的な関心が高まっている。


<総論>
・どんな薬があるのか

アヘン類:モルヒネ,ヘロイン
コカイン:フリーベース,「クラック」,「ロック」
覚せい剤:アンフェタミン,メタンフェタミン,「ヒロポン」,「シャブ」,「エス」,「スピード」,「アイス」
MDMA:合成麻薬,「エクスタシー」,「バッテン」,「エックス」
マジックマシュルーム
大麻:マリファナ,「ヘンプ」,「ハシュシュ」
LSD

<物質関連障害とは・・・>
物質関連障害は薬物使用によって生じる精神障害の総称で,薬物依存を含む広い概念。
ICD-10での薬物依存の定義
「薬物の作用による快楽を得る目的または離脱による不快を避ける目的で,有害であることを知りながら,その薬物を持続的に摂取せずにはいられなくなった状態」
             
要するに,「悪いとわかっちゃいるけどやめられない状態」であるといえます。


<薬物依存の要因>
薬物依存に陥るためには,薬物,個体,環境の三要因が必要。

①薬物:依存形成性薬物
依存の形成は一部の薬剤に限られる。
依存の形成のためには薬物摂取後の快楽が必要であり,それが大きければ大きいほど強い依存が生じる。
快楽の詳細な機序は不明。中脳の腹側被蓋野から側坐核や大脳前頭葉に投射するドパミン作動性ニューロンが鍵を握っている。
このニューロンは報酬系と呼ばれ,興奮によってシナプス間隙のドパミン濃度が上昇し,それが快楽を引き起こすと考えられている。逆に,報酬系に作用するものが依存形成性薬物であるといえる。なお,抗うつ薬や抗精神病薬は報酬系とは無関係であり,依存は生じない。

②個体:反社会性
目の前に依存形成薬物があっても,薬物依存に陥る者はわずか。
まず,薬物に手を出すか否かという問題があり,敢えてルールを犯すという反社会性が前提となす。
次に,手を出した後に依存が生じるか否かについても,大きな個体差がある。おそらくは,薬物が引き起こす報酬系の興奮の程度が個体によって異なるためと考えられる。

③環境
目の前に依存形成薬物がなければ,薬物依存は生じないし,一度生じた薬物依存を克服することができる。
例えば,いくら覚せい剤に対する強い渇望を覚えても,刑務所で服役中であれば,入手することができない。
逆に,薬物を容易に入手できる立場にある者ほど,薬物依存に陥りやすい。医療関係者は要注意。



薬物依存と身体依存
① 精神依存
薬物依存の不可欠の要素で,まさに「悪いとわかっちゃいるけどやめられない」(精神状態)を意味する。

②身体依存
薬物の存在によって生体が何とか生理的平衡を保っている状態(身体状態)で,その薬物がなくなると,離脱症状(withdrawal symptoms)が生じる。
逆に,離脱症状は,身体依存が生じているときに,その薬物の摂取を中止することによって生じる病的な身体症状と定義できる。精神依存だけでは,離脱症状は出現しない。

・身体依存を生じる薬物
アルコール,アヘン類,バルビツール酸系化合物,ベンゾジアセピン系誘導体がその代表である。(有機溶剤も弱いながらも,身体依存を生じる可能性が指摘されている)
これらはいずれも抑制性の薬物で,離脱症状はその薬理作用とは逆に興奮性になる。
他方,覚せい剤,コカイン,大麻などの興奮性の薬剤では,身体依存は生じない。


<耐性>
同じ量の薬物を連続して摂取しているうちに,次第にその効果が減弱することがある。この場合に,最初のころに覚えた満足感を得ようとすれば,より多くの薬物を摂取する必要が生じ,このような現象を耐性と呼ぶ。
耐性は,薬物に暴露され続けたシナプス後部の受容体のdown regulationによると考えられている。ある薬物がdown regulationを引き起こす程度はさまざまであり,耐性形成傾向も薬物ごとに異なる。
ある薬物(例えばアルコール)について生じた耐性が,他の薬物(例えばバルビツール酸系化合物)に引き継がれることがある。おそらく受容体が共通だったり,何らかの関連性をもっているために生じ,交差耐性(cross tolerance)と呼ばれる。
これは「酒飲みには麻酔薬が効きにくい」現象として巷でも広く知られている。


記事作成:加藤晃司(医療法人永朋会)
     専門:児童精神科(日本精神神経学会専門医、日本児童青年期精神医学会認定医、子どものこころ専門医)