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臨床情報「薬物依存について」②

今回は、「薬物依存について」②です。


私の講義内容から一部抜粋しています。



【各論】


<アヘン類による障害>
・概念
アヘンは,ケシの種子の浸出液を乾燥させた粉末状の物質で,ここから抽出した天然アルカロイドがモルヒネとコデインである。他方,ヘロインは半合成アルカロイドで,もともとはモルヒネの離脱症状を抑制する英雄(ヒーロー)のような薬剤として登場したが,実際にはモルヒネの数倍の依存形成傾向をもつことが分かり,もっぱら闇の世界でのみ流通している。
これらの薬物は,「麻薬及び向精神薬取締法」で「麻薬」として厳しく規制されている。
アヘン類の特徴は,精神依存,身体依存,耐性形成傾向のいずれも極めて強い点にある。
ところで,癌性疼痛などにモルヒネを使用した場合には,依存形成傾向が生じない。その詳細は不明。

・症状
①精神症状
初回の摂取では,多くはぼんやりとした感覚が得られるだけだが,一部の者には「何にもかえがたいほどにすばらしい快感」が生じ,陶酔状態に陥る。
連用すると,強い耐性形成傾向によって,同様の快感を得るための薬物量は飛躍的に増加する。
他方では,強い精神依存によって,患者は必至に薬物を求め,そのためには手段を選ばなくなる。
身体依存が形成されると,離脱による不快な症状を避けたいという動機も加わり,薬物探索行動がさらに激しくなる。

②身体症状
オピオイド受容体の刺激によって,呼吸抑制,便秘,縮瞳が生じる。
そして,薬物摂取だけが生きがいとなるので,低栄養状態に陥り,やせや皮膚乾燥が目立つ。
経静脈摂取が最も効率的なので,患者はしばしば注射の回し打ちを行い,結果的にHIV感染を拡大させる。
西ヨーロッパの一部の国では,自動販売機で注射を購入できるシステムを採用している。


③離脱症状
断薬半日後から一日後に,自律神経系を中心とした過度の興奮状態が生じ,「自律神経の嵐」と呼ばれる。
アヘン類には鎮静作用があるので,これが撃ち破られ,患者は激しい苦悶感や不安感に襲われ,薬物を求めて恐ろしい形相で怒号したり,逆にすがりつくような態度で乞い願う。
また,縮瞳の反対とし散瞳,便秘の反対として下痢,嘔吐中枢抑制作用の反対としての激しい嘔吐,分泌腺抑制作用の反対として発汗,流涙,鼻汁過多などが次々と出現する。
さらに,運動神経の興奮による痙攣,知覚神経の興奮による神経痛様の疼痛も生じ,患者はもだえ苦しむ。
これらの症状は断薬後2~3日がピークで,10日目くらいにはほぼおさまる。


・治療
入院させて断薬し,身体依存を断つ必要がある。
問題となるのは離脱症状の処置だが,本邦では特別な処置をしないで,患者に苦しみをじっくりと味わってもらい,それを動機に薬物依存の恐さを知らしめる治療法(即時離脱法)が中心。
欧米ではメサドン療法が広く行われている。メサドンはオピオイドμ受容体のアゴニストであり,それ自体も法律上の麻薬。メサドンは依存も耐性形成傾向も離脱症状もモルヒネよりははるかに弱いので,投与したメサドンを漸減しながら,依存状態からの脱却を図る。
本邦では,「麻薬及び向精神薬取締法」によって,麻薬中毒者の離脱症状に対する麻薬投与は禁止されている。


<バルビツール酸系化合物による障害>
・特徴
かつては主要な睡眠薬であったバルビツール酸系化合物は,摂取直後の「うきうきするような気分」のために,「睡眠薬遊び」として乱用されていた。
ただし,近年は睡眠薬のほとんどがベンゾジアセピン誘導体となったために,バルビツール酸系化合物による障害は著しく減少している。
バルビツール酸系化合物は「麻薬及び向精神薬取締法」の向精神薬として規制の対象となっている。

・症状
使用により覚醒系が抑制され,鎮静睡眠作用を発揮する。
抑制作用は大脳連合野にも及ぶため,思考がまとまらなくなり,意欲も減退する。
小脳も抑制されて,構音障害や眼振を引き起こす。
本剤は耐性形成傾向が比較的強いので,「うきうきするような気分」をえるために必要な薬物量は次第に増えていく。すると,身体依存が形成され,断薬により離脱症状が出現する。
離脱症状は痙攣発作とせん妄状態が中心で,この点はアルコールと共通。


<ベンゾジアセピン類による障害>
・特徴
ベンゾジアセピン誘導体は,抗不安作用,筋弛緩作用,鎮静催眠作用,抗けいれん作用を発揮する。
本剤はアルコールと併用したときに精神変容が生じ,それを快感と感じて,精神依存を形成することもある。
本剤の単独使用では快感が得られないので精神依存は生じないし,耐性形成もほとんど認められない。ところが,患者の知らない間に身体依存が形成され,断薬によって自律神経症状とともに反跳性不眠や不安がわきあがり,薬物の摂取を中止することができなくなる。

記事作成:加藤晃司(医療法人永朋会)
     専門:児童精神科(日本精神神経学会専門医、日本児童青年期精神医学会認定医、子どものこころ専門医)