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臨床情報「小児の気分障害について」

今回は、「小児の気分障害について」です。

まずは小児の気分障害の特徴を以下に箇条書きにしてみます。

1.10歳前後から認められる
2.不安症状(恐怖症,分離不安),身体症状,癇癪,行動上の問題,幻覚・妄想など,多彩な症状を呈する(若年ほど)
3.rapid cycle が多い
4.思春期周期性精神病(periodic psychosis in puberty)との異同
5.治療は成人の治療に準ずる
6.注意点は統合失調症の発症あるいは preschizophrenic phase を気分障害として誤診した場合,三環系抗うつ薬によって急性増悪することがあること

という感じになります。
大人とは違った症状の出現の仕方をするので、診断には注意が必要です。現在の標準的な診断基準であるDSMで子どもも診断が可能となっていますが、小児の気分障害について細かい記載はありませんし、大人と子でも診断基準が異なっているわけではありません。
過剰診断になってしまってはいけませんし、見逃して治療開始が遅れることもよくありません。難しいのは、主訴として、気分が落ち込む(抑うつ気分)、やる気がでない(意欲低下)、何にも興味がでない(興味の喪失)のような大人の気分障害で認められやすい症状ではなかなか外来を受診してこないので、治療者の方が気が付かなければ見逃す可能性があります。
「なんとなく不安」、「学校にいけない」、「お腹が痛い」などの主訴の裏側に気分障害が横たわっている可能性がありますので、鑑別診断の中にいれておく必要があります。
またDSMでの横断的な診断とは別に、生育歴を聴取することで病態水準を見極めることも気分障害の治療に限らず重要ですので、精神科診療は2軸で評価することを忘れないでください。

次に小児の大うつ病に対する薬物療法についてです。また以下に薬物療法における重要なことを箇条書きであげます。

小児の大うつ病(major depression)の薬物療法(1)

1.小児における三環系抗うつ薬の有効性は認められていない
 (meta-analysis of 12 randomised controlled trials comparing the efficacy
of tricyclic antidepressants with placebo in depressed subjects
aged 6-18 years. Hazell, et al. 1995)
  さらに,近年抗コリン作用の認知機能への影響が指摘されている.
2.SSRIに関しては,現在までのプラセボ対照無作為化試験の結果,
 sertlaline,(fluoxetine),(citalopram)が小児の大うつ病に対する有効性が確認されている.paroxetineは有効性の報告もみられるが評価は一致していない.fluvoxamineのプラセボ対照試験はなく有効性は確認できていない.本邦では棟居ら(2004)が,対照群のない後ろ向き研究ではあるが,fluvoxamineの思春期うつ病に対する有効性と忍容性を報告している.
3.本邦で使用可能な唯一のSNRIである milnaciprane に関しては,
 小児でのプラセボ対照試験がなく有効性は確認できていない.venlafaxineについてはプラセボ対照無作為化試験で有効性が認められなかった.
4.認知行動療法(cognitive behavior therapy, CBT)や対人関係療法
 (interpersonal psychotherapy)の両方で有効性が認められている.
5.CBTと薬物療法の併用療法については,青年期患者を対象としたfluoxetineとCBTの併用群は fluoxetine単独群,CBT単独群,プラセボ群と比較して有意な改善を認めた(March et al. 2004).

小児うつ病に対する薬物療法、CBT、薬物療法+CBT、それぞれの有効性については確認されてきています。特に薬物療法に関しては、うつ病に限りませんが、エビデンスの高い順番に使用する必要があります。

これまでの薬物療法に関する研究をまとめますと、

1. 小児のうつ病には抗うつ薬が有効であること
2. 服薬開始後,いわゆる activation syndrome (不安,激越,パニック発作,不眠,易刺激性,敵意,衝動性,アカシジア,軽躁,躁状態などの中枢刺激症候群)が出現することがあること,そしてそれは全ての抗うつ薬に起こり得ること
3. 服薬開始後,自殺関連事象が一過性に出現することがあること,しかし自殺既遂のリスクは決して高くはないこと
4. 上記 2,3 の場合には,すぐに主治医に連絡すること
5. 以上のことについて,本人および家族に説明し,外来治療の場合には
 服薬開始からしばらくの間は週1回の受診を進めること


となるかと思います。


簡単ですが小児気分障害の特徴、薬物療法についてまとめました。

子でもであっても大人とは違う形で気分障害になる可能性があり、その治療に関しても少しずつ科学的根拠のある治療法がでてきています。
子ども治療、特に薬物療法については過剰診断となり必要ない子に治療が行われるのは副作用しかありませんし、逆に薬物療法に必要以上に不安になり、治療開始が遅れることも子どもにとってはデメリットが大きくなります。あまり進行してからだと治療への反応が悪くなり、終結まで時間がかかってしまう可能性あります。

DSMにはのっていないが、臨床上共通している部分について記載してみました。
ご参考にしていただければと思います。

記事作成:加藤晃司(医療法人永朋会)
     専門:児童精神科(日本精神神経学会専門医、日本児童青年期精神医学会認定医、子どものこころ専門医)