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臨床情報「小児統合失調症に対する薬物療法の考え方について」

今回は、「小児統合失調症に対する薬物療法の考え方について」です。

私のデータより一部抜粋しています。後半で小児統合失調症の薬物療法についての考え方について書いていますが、まず前半ではブロナンセリンの臨床研究について少し触れさせてもらいました。論文読むのが苦手な人は前半飛ばしていただいて、後半部分だけ読んでいただいても理解できると思います。

小児統合失調症の薬物療法について、本邦においてはまだ保険適応となっている薬剤がないのが現状です。現在アリピプラゾール(aripiprazole:APZ)、ブロナンセリン(blonanserin:BNS)の小児統合失調症に対する国内プラセボ対照二重盲検比較対象試験を行っておりますが、まだ保険適応にはなっていません。大学病院時代に私も参加していましたが、統合失調症という進行性の疾患において、対照薬にプラセボを使用することでの試験導入へのハードルは非常に高く、苦戦をするだろうなとは思っていました。
しかし現実的にはDSMでの診断基準を満たした場合、成人の治療に準じて薬物療法がおこなわれています。小児統合失調症における有効性、安全性についてのエビデンスは少しでもあった方がいいと考えてこの論文を書きました。

<前半>
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はじめに
統合失調症の発症年齢は15歳以前には稀であり,15歳を過ぎると次第に増加し18歳以後から20歳台にかけて急増する曲線を描くと言われている。しかし青年期以後に比べて児童期で発症する頻度は稀ではあっても,重要な疾患であることに変わりはない。 児童・青年期の統合失調症の治療には患児や家族を含め多面的なアプローチが必要である。当然,薬物療法が基本になるが,並行して心理教育,支持的な精神療法,社会・教育的支援プログラム,低学年では教育的配慮などを組み合わせて行うことが重要である。
児童・青年期の統合失調症に対する薬物療法に関しては,成人の統合失調症に対する薬物療法のアルゴリズムを参考にして行われることが一般的である。現在,成人の統合失調症に対しては第二世代抗精神病薬(second generation antipsychotics: SGA)が第一選択薬となっている。しかし,成人のアルゴリズムをそのまま児童・青年期の統合失調症に適用できるとは限らないことを忘れてはならない。
もちろん薬物療法を行う場合には児童・青年期の統合失調症に対する臨床試験の結果から薬剤選択を行うべきであるが,児童・青年期の薬物療法の有効性,安全性に関する臨床試験は成人と比較するとあまり行われていない。海外においては児童・青年期の統合失調症を対象としたオープン試験や二重盲検比較試験がいくつか報告されている。第一世代抗精神病薬に関しては,haloperidolがプラセボ対照二重盲検比較試験において有効性が認められている。そしてSGAに関しては,clozapone,risperidone(RIS),olanzapine(OLZ),quetiapine(QTP),aripiprazole(APZ)がオープン試験や二重盲検比較試験において有効性が報告されている。またSeidaらは児童・青年期の統合失調症に対して使用した抗精神病薬に関して系統的レビューを行い,統合失調症患者に対するSGAの有効性に関してはほぼ同等であったと報告している。このように海外では報告が認められているが,本邦においては児童・青年期の統合失調症を対象とした二重盲検比較試験は現在進行形である。
Blonanserin(BNS)は本邦で開発された新規抗精神病薬であり,ドパミンD2(dopamine D2)及びセロトニン5-HT2A(serotonin 5-HT2A)受容体を強力に遮断する。現在までに本邦において児童・青年期の統合失調症に対するBNSの有効性については症例報告のみが報告されている。

考察
今回我々は児童・青年期の統合失調症に対してBNSを投与した12名を対象として,その有効性と安全性について検討した。
本研究において,BPRSは42.6±10.1(0W)から29.2±10.8(8W)に有意に減少していた(P<0.05)。BNSの初期開始量は7.0±1.8mg/日,平均投与量は10.9±3.2mg/日,最大投与量は14.6±3.9mg/日であった。BPRSを評価尺度として使用している他の研究と比較し,BNSの児童・青年期の統合失調症に対する有効性について検討してみる。GrcevichらはRISを投与した児童・青年期の統合失調症患者16名(9-20歳)を対象として後方視的研究を行っている。その結果,平均治療期間(3.9±2.8 months)でBPRSは48.9±7.5から30.1±6.4に有意に減少していた。RISの平均投与量は5.9±2.8(2.0mg-10.0mg)であった。またArmenterosらは,児童・青年期の統合失調症患者10名(11-17歳)を対象として6週間のオープン試験を行っている。この試験ではRISの開始用量は2.0mg/日であり,最大投与用量は10.0mg/日となっている。このオープン試験の結果,BPRSは40.5±5.4(0W)から28.3±6.2(6W)に有意に減少していた。RISと比較しても,BNSはRISと同様に児童・青年期の統合失調症に対して有効である可能性があると考えられる。次にBNSの投与量に関して,成人の統合失調症を対象とした本邦でのRISを対象とした無作為化二重盲検試験と比較してみる。8週間の試験でBNSは8-24mg/日(開始用量8mg/日)で1日2回投与している。試験終了時の平均投与量は16.3±6.2mg/日であった。本研究における平均投与量は10.9±3.2mg/日であり,児童・青年期での統合失調症治療では成人と比較すると投与量は少なくなる可能性があると考えられる。
副作用に関して,本研究では重篤な副作用は認めず,副作用による中止はなかった。最も多い副作用は傾眠(41.7%)であり,次いで倦怠感(33.3%)であった。RISのオープン試験(6W)と比較すると,最も多い副作用は傾眠であり,8/10(80.0%)が傾眠を訴えていた。また別のRISのオープン試験(6W)では,傾眠は72.7%であった。APZの6週間のプラセボ対照比較試験では,傾眠はAPZ10mg投与群で11%,APZ30mg群で22%であった。RISと比較すると児童・青年期統合失調症に対する治療においてBNSは鎮静が少ない可能性はある。しかし本邦での成人の統合失調症を対象とした臨床試験では,傾眠は20.5%であった。成人と比較すると児童・青年期においては鎮静が出現しやすい可能性はある。児童・青年期における治療において過鎮静は子どもの活動性を低下させ,学校や家庭での生活に支障が生じる可能性があるためBNSに限らず抗精神病薬を投与する場合にはなるべく鎮静の少ない薬剤を選択するべきである。

まとめ
本研究はBNSの投与を行った12名の児童・思春期の統合失調症患者を対象にして調査を行った。本研究の結果から,児童・青年期の統合失調症に対してBNSは有効である可能性が示唆された。もちろん児童・青年期の統合失調症に対しては薬物療法だけでなく,本人や家族への心理教育,支持的精神療法,学校や家庭での環境調節などの包括的なアプローチが必要である。今後本邦において児童・青年期の統合失調症に対するBNSを含めたSGAの有効性と安全性を証明するには前向視的な試験が必要である。
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<後半>
以上が論文の中身です。今回はBNSについてのデータ検証でしたが、統合失調症に限らず薬剤はエビデンス通りの順番で使用するべきですが、効果、副作用については実際に使ってみなければ分からなくて当たり前です。患者さん一人一人あらゆる条件が異なりますから、必ず効果がある薬や副作用がない薬はありません。どの内服にも必ず副作用がある以上は、使う限りはメリットがデメリットを上回っている必要があります。薬剤を使用開始する時期についても、まだ児童精神科領域でコンセンサスが得られているとは言えません。DSMでの診断基準を満たしているのが確実だとは思いますが、現状の診断基準を満たすには幻覚、妄想が出現している必要があります。しかし思春期で発症する場合、幻覚、妄想は顕著ではなく、漠然とした不安・恐怖、自我漏洩症状、のみ認められているケースが少なからずあります。例えば被害妄想というよりかは、被害関係念慮程度でとまっている場合もあります。

早期介入が予後を必ず改善させるわけではない以上、あまり早い時期に薬物を開始すると、ほんとは発症しなかった人に薬剤を長期投与してしまう可能性あり、それはリスクの方が大きくなってしまいます。統合失調症の薬物療法は中断できるケースもありますが、再発を繰り返した時に少しずつ全般的な機能が低下していく可能性があるため、治療する側、される側双方が中断に対して消極的になる傾向にあります。もちろん治療開始時期が必ずDSMの診断基準をすべて満たすこととあまりに固執すれば統合失調症の進行が進み、予後を悪化させてしまう可能性もあります。

上記のことを踏まえると、断定的なことは言えませんが、自我漏洩症状(思考障害など)がでた時点での薬物療法開始がもっとも早い薬物療法のタイミングでのスタートとなるのではないかと考えています。
もちろんあらゆる精神疾患の治療は①DSMに基づく横断的診断→エビデンスに基づく薬物療法、②従来診断→病態水準に基づいた精神療法、この二つがダブルスタンダードとなります。①と②の比重の問題は各ケース異なると思いますが、基本的にはどちらか一方のみでやるのは精神科診療においては不十分な治療となってしまう可能性が高いです。治療的アプローチとしては結果的に薬で良くなったように見えても、アセスメントの段階では①、②両方の視点で行う必要があり、診断と見立てをつけなくてはいけません。それに薬一つとっても、誰が、どのタイミング、どのような関係性の中で、どのような言い方で処方したのかによって治療効果は変わってきます。それが精神科医療の面白いところでもあるのではないかと個人的には考えています。実際になんらかの薬剤を保険適応にするための臨床試験でも、身体治療の薬と比較するとプラセボの有効性が高いのが精神科疾患の特徴だと思います。もちろん市販される薬は、それでも実薬と、プラセボの有効性に統計学的に優位な差があるため保険が認められるので薬自体の効果はもちろん科学的根拠があります。
①のようなDSMに基づく薬物療法についてはエビデンスどおりの使用、つまり国内では保険適応となっている薬剤から順次使用していくことになるでしょう。なぜならば、同じ種類の向精神薬でも、保険適応となっている病名は異なるからです。精神科は保険適応となっていない薬剤を第一選択薬として使っているケースを少なからず目にすることがあります。これは科学的根拠の低い薬剤からの使用となるため、なんらか特別な理由がない限りは行うべきではないと考えます。



記事作成:加藤晃司(医療法人永朋会)
     専門:児童精神科(日本精神神経学会専門医、日本児童青年期精神医学会認定医、子どものこころ専門医)