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臨床情報「高機能広汎性発達障害の定義」について

今回は、「高機能広汎性発達障害の定義」についてです。


まずは一般的な定義としては、

・「知的障害のない」広汎性発達障害
・通常はIQ>70と定義
・広汎性発達障害の診断基準にはIQは含まれていない。
・高機能者に特有の問題が存在する

という感じでしょうか。つまり高機能だから病態がいいというわけではなく、高機能であるための問題というものが生じるということが重要です。つまりIQが問題なくても、広汎性発達障害の診断はつくため、対人相互性の障害を中核としたさまざまな困りごとが生じる可能性はあります。またIQが問題ないために診断がつくのが遅れ、病院を受診する段階では広汎性発達障害による二次障害が生じてしまっているケースも少なからずあります。
大事な部分なので繰り返しますが、広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害:ASD)や注意欠如多動性障害(ADHD)の診断基準にIQは入っていないということです。つまりIQが高くても、低くてもASDやADHDの診断はつくということです。ではなぜIQを測定しているのかといえば、下位項目のばらつきをみたいのと、あまりにIQが低ければ主病態が知的障害ということになり対応の仕方は異なってくるからです。
さらにいえば発達検査をやらなくてもASD,ADHDの診断は丁寧な問診、生育歴の聴取によって可能だということです。

<「高機能」であることが意味するもの>
・広汎性発達障害としての特性が軽度とは限らない
 場が読めない、冗談や皮肉が通じない、特定の興味に限局、常同性への固執、こだわり
・対人性への指向
 行動の結果、相手の気持ちを見通すことができない。
 低い対人スキル→不適切な対人行動の学習
・周囲からの理解・配慮が得られにくい
 「わかるはずなのに」「わざとやっているのでは」
 高い対人性の要求→ネガティブな経験の蓄積
・不適応状況が持続しながら、成人期に達することも多い

つまり高機能なため、診断がつくことが遅れることで上記のような問題がおきる可能性があります。失敗体験を繰り返すことで自己評価が低下してしまい、自我機能が落ちてしまい二次障害へと発展するリスクがあります。二次障害が生じてから病院を受診する方の方が多い印象がありますが、そうなってからの治療はやはり時間がかかるため、早期に発見して早い時期からなんらかの治療的アプローチをしてあげた方がいいのだろうと思います。
あまりに失敗体験が多いと、「努力してもどうせうまくいかない」と自信のない子どもになってしまいます。

<高機能広汎性発達障害の発達で忘れがちなこと>
・発達障害を持ちながら産まれ、親子関係、友人関係が展開し人格が形成されていくということ
・親に常に愛され、見守られているという安心感の感じられなさ
・子が親の愛情を常に求めていると感じられない親の不甲斐なさ
・親が何を言っても、届いているか分からない無力感

高機能ゆえの親子間の問題も生じてきます。対人相互性の障害があると母子の愛着形成を障害することがあります。つまり親からすると自分の愛情が届いていない感じがしますし、子どもからすると自分のことを理解してもらっていない、という双方向のずれが生じてしまいます。そのずれを埋めるためには広汎性発達障害という疾患概念が親、子どもの双方に必要です。親は知識をつけることで本人の感覚に近づく必要があり、本人は自分の努力だけの問題ではないと肩の荷を少しでも下す必要があります。また肩の荷をおろすのは、育て方のせいだと言われていたかもしれない親にも必要な作業をとなります。つまり発達障害の診断がつくことで、子ども、親の双方が腑に落ちる部分があることが重要だと思います。通常は互い違う部分で腑に落ちることが多いかなと思います。

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抑うつ、自信喪失、感情的な対応が増えると悪循環。
告知、支援上の配慮が最初の支援の核
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次に高機能広汎性発達障害の子たちが大学生の時にどのような困難に遭遇することがあるのか考察してみたいと思います。私は大学病院勤務時代に、ある大学の学生相談室に定期的に担当医として勤務していたため、その時の経験から書いています。

<高機能広汎性発達障害の大学生の来院経路
多くは、フォローアップを受けた既往がなく、未診断>

1)学生相談室からの依頼
もともとの動機は、大学生活上の悩み、教官からの相談、駆け込み(パニック、身体症状)、就職困難
2)カウンセリング機関からの依頼
 数年の面接継続を経てからの依頼
3)教官からの依頼
 身近に発達障害の子ども・学生の経験
4)病院・診療所からの依頼
 併存疾患、誤診(統合失調症、境界性人格障害など)
 最近、徐々に発達障害での紹介↑
5)司法的問題、行動上の問題が契機
6)引きこもりに対する教官・家族からの相談
 →来院につながらず


<来談動機・経路からみた大学生の支援>
・早期診断と継続支援
・全体に診断は遅れがち
・カウンセラー・教官・医師の発達障害に対する見識に依存→発達障害の理解の促進
・保健室型の開かれた保健管理センターの有用性
・常駐の看護師やその他スタッフが初期対応
・診療所型は敷居が高い


学生相談室に相談にくる学生は理由はさまざまです。私が勤務していた大学では最初の初期相談は受付スタッフ(非専門職)が受け、ケースによって臨床心理士の先生の予約をとるか、精神科医である私の予約をとるかを振り分けていました。
診断と治療が必要そうなケースが私のところにまわってきていたと思います。
そのケースの半分以上がなんらかの発達障害の診断がついたことを覚えています。大学入試は乗り越えてきているので高機能の子が多く、一見すると発達障害とわかりにくいタイプ(受容型)が多かったです。


<初期の大学生活における要請と不適応>
単身生活の開始
 慣れない土地での借家探しと契約
 住民票の移動
 銀行口座の管理
 ガス・水道・電話の手続き・支払
 唐突に訪問するNHK集金人への対応
 新聞の押し売りをかわしつつも契約
 生活用品の確保
 洗濯と食生活:自炊or外食
履修科目の登録と受講
 必須科目はわずかで自由度が高い
 履修手続きが複雑
 抗議は専門的で、突き詰めるときりがない
 教科書は読み切れず、また理解できない
 教室も変われば、同室者も異なる
 講義への出席率が低いが、時に騒がしく
 さらに試験の日は騒然とする

異性との交流
 大学生は交際しなければという固定概念
 交際を希望するも切り出せず
 時に、テレビやビデオの模倣で問題化
 交際を切り出されても気づかないか困惑
 自身の感覚を相手にも押し付け破綻
 自身の道徳観をあいてに押し付け破綻
 相手の求める言葉が読み切れず失敗
 一変した相手の素っ気ない態度に混乱
 相手に執拗に気持ちを尋ね続け事例化


大学生活の初期は、構造化されず見通しの持てない生活環境の中で自己決定を要求され、基盤となる生活空間や対人基盤がなく、対人スキルを要求される複雑な状況に置かれます。しかし、その混乱に気づく他者がいないことから、対応に遅れが生じやすく、実際に相談にくるのも大学後半になってからの学生が多かったように思います。
  



<大学における高機能広汎性発達障害の支援>
①抽出された学生のみを対象とした支援には自ずと限界
②発達障害の診断にいたらない、配慮を要する特性としての理
 解を教職員に徹底
③大学には支援の核となる場所・人物の設定が必要
 保健管理センター
 学生相談室
 学生部
 チューター:対応する力には開き
   (1)短期の危機介入:避難場所、認知の早期修正
   (2)支援システムの構築
④就労支援
  就労支援部門の啓蒙、活用
  不就労が見込まれる場合には、関係機関へ繋げる


発達障害がもしベースにあり、なんらかの問題が生じているのであれば、なるべく早くみつけてあげる必要があります。
本人が自ら学生相談室にくることは少なく、やはり普段接点のある大学職員が発達障害についての知識を持ち、スクリーニングできるくらいになっていないと大学生活の早期にみつけてあげることは難しいのではないかと思います。
また学生相談室で最初に相談を受けるのは一般事務であることが多く、そこでのスクリーニングも非常に重要であると考えます。相談室で勤務する以上は、発達障害に限らず、精神疾患全般の知識を最低限みにつけておく必要があります。
私が嘱託でいっていた大学では定期的に教職員を対象としてレクチャーを企画し、私が話していました。レクチャーをすることで教職員との直接の関係が学生相談室の担当医や、担当カウンセラー、が持てるのでそれもダイレクトの相談経路を作る意味では意味があったと思っています。

記事作成:加藤晃司(医療法人永朋会)
     専門:児童精神科(日本精神神経学会専門医、日本児童青年期精神医学会認定医、子どものこころ専門医)