アットドクター

児童精神科医・精神科医・臨床心理士・管理栄養士が
心の悩みに答えるQ&Aサイト

  • 医師・臨床心理士・管理栄養士一覧
  • お問い合わせ
  • よくあるご質問

臨床情報「注意欠如多動性障害(ADHD)と鉄、フェリチンの関係について」

今回は、「注意欠如多動性障害(ADHD)と鉄、フェリチンの関係について」です。

最近ではADHDと鉄欠乏、血清フェリチン低下との関連性の話題はよく耳にするようになりました。私の所属していた大学病院でもADHD患者さんに対し採血で血清フェリチン値、ヘモグロビン値、ヘマトリックス値、鉄濃度を測定することがありました。論文としてもADHDと鉄、フェリチンについて関連性がある、関連性がない、両方含めて多くでてきています。

脳も含めてあらゆる臓器は食事からの栄養をもとにして作られています。栄養と精神症状との関連性は論文のエビデンスレベルはまだそれほど高いものはありませんが、臨床研究が行われ相関がある成分も報告されてきています。ビタミン、ミネラル、脂肪酸、などが代表的なものとなっています。

オメガ3、6、DHA、EPAとADHDとの関係性についての論文は以前紹介しました。今回は鉄(Fe)との関係性についてです。神経伝達物質の生合成の経路で鉄が補酵素として関与していることを考えると、ドパミン、セロトニン、ノルアドレナリンの生成に鉄欠乏が影響を与える可能性はあると思います。


「Peripheral iron levels in children with attention-deficit hyperactivity disorder: a systematic review and meta-analysis.」

Abstract
There is growing recognition that the risk of attention-deficit hyperactivity disorder (ADHD) in children may be influenced by micronutrient deficiencies, including iron. We conducted this meta-analysis to examine the association between ADHD and iron levels/iron deficiency (ID). We searched for the databases of the PubMed, ScienceDirect, Cochrane CENTRAL, and ClinicalTrials.gov up to August 9th, 2017. Primary outcomes were differences in peripheral iron levels in children with ADHD versus healthy controls (HCs) and the severity of ADHD symptoms in children with/without ID (Hedges' g) and the pooled adjusted odds ratio (OR) of the association between ADHD and ID. Overall, seventeen articles met the inclusion criteria. Peripheral serum ferritin levels were significantly lower in ADHD children (children with ADHD = 1560, HCs = 4691, Hedges' g = -0.246, p = 0.013), but no significant difference in serum iron or transferrin levels. In addition, the severity of ADHD was significantly higher in the children with ID than those without ID (with ID = 79, without ID = 76, Hedges' g = 0.888, p = 0.002), and there was a significant association between ADHD and ID (OR = 1.636, p = 0.031). Our results suggest that ADHD is associated with lower serum ferritin levels and ID. Future longitudinal studies are required to confirm these associations and to elucidate potential mechanisms.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29335588

この論文はフルテキスト読めますので、ご興味のある方は見てください。

<論文サマリー>
ADHDの病態生理は完全には解明されていませんが、前頭前皮質および皮質下領域でのドパミン作動性ニューロン発達の調節不全があると考えられています。最近、ADHDの病因において、環境(非遺伝)因子の潜在的な影響が注目されています。環境リスク要因の中で、鉄欠乏がADHDの危険因子として関与している可能性があるとの報告がいくつかでています。

鉄は、ヘモグロビン構造、抗酸化物質、遺伝的修復、特に中枢神経系(CNS)機能のホメオスタシスに役立ちます。鉄はフェリチンとの結合を介して体内に安全に貯蔵され、遊離鉄の分解作用を防止します。鉄は脳の初期発達にとって非常に重要であり、正常な髄鞘形成および神経伝達物質の機能に必要とされます。出生前および出生後の両方で、鉄吸収障害およびそれに続く鉄欠乏症(ID)が、神経発達を損なう可能性があり、長期的かつ不可逆的な結果をもたらす可能性があることが証明されています。さらに、IDは、ミエリン化および/またはシナプス形成異常調節をもたらす可能性があり、またIDはモノアミン合成の障害に関連しており、モノアミンシグナル伝達が調節不全になる可能性が示唆されています。したがって、適切な鉄摂取量および末梢鉄レベルは、ADHDの発症を改善する、またはADHDの重篤度を改善する重要な要因となる可能性があります。

現在までに、3つのメタアナリシスが、小児ADHDにおいて、鉄またはフェリチンの形態の末梢鉄レベルを評価しています。末梢フェリチンレベルは、感染、炎症、酸化ストレスなどのさまざまな要因によって影響を受ける可能性があり、臨床において鉄貯蔵の全体像を示すものではない可能性があります。

今回の研究の目的は、ADHD児と健康な(無症状の)対照(HC)との間の末梢鉄レベルおよび鉄状態のすべてのパラメータの差を考慮して、体系的レビューおよびメタ分析を行うことです。さらに、IDの診断とADHDのリスクと重症度との関連性を探ることを目的としました。
私たちのメタアナリシスの結果は、ADHDと診断された小児は、ADHDなしの患者と比較して血清フェリチンレベルが低いことを示唆しています。 我々はまた、IDを有する子供がADHDを有する可能性が高く、IDのない子供と比較してADHD症状がより重篤になることを証明しました。 したがって、ADHD児、特に重度のADHD症状を呈している小児における鉄補給のメリットを調べるために、さらなる研究が必要であることを示唆しています。

記事作成:加藤晃司(医療法人永朋会)
     専門:児童精神科(日本精神神経学会専門医、日本児童青年期精神医学会認定医、子どものこころ専門医)