臨床情報「小児の社交不安障害(social anxiety disorder)について」
小児の社交不安障害(social anxiety disorder)について
今回は小児の社交不安障害(sacial anxiety disorder: SAD)についてのお話です。
SADは大人で受診するケースが多いですが、疫学調査では児童から思春期にかけて最初の症状がでる割合が高い疾患の一つです。
しかもその症状により学校での生活に支障がでたり、塾や習い事、家族との外出や旅行などに行けなくなり、自宅にひきこもってしまうケースも少なからず存在します。
なかなか自分の症状を自覚できず、病院を受診することなく長期間苦しみ続けていることもあります。
失敗体験が続いてしまうと、自己評価が低下してしまい二次障害として子どもであってもうつ病などの気分障害を発症する可能性もありますので、心配な場合には専門医へ早期に相談した方がいいと思います。
上記のような状態がSADの症状により引き起こされている場合には治療により改善する可能性もあります。
子どもの不安について以下に少しまとめました。
次の臨床情報ではSADのスクリーニング検査(LSAS)についてもご紹介します。
<子どもの不安とは>
子どもの不安が通常の範囲なのか,一時的なものなのか,あるいは病的な状態なのか,を鑑別するためには,標準的な子どもの発達と比較する必要があります。子どもの不安や恐怖は,成長するにしたがって変化していき,認知能力が発達することによって特定の状況において不安をコントロールすることができるようになり,さらにそのような体験をもとに異なる状況においても危険を認知し理解することができるようになるといわれています。
たとえ健常児であっても,幼児期では,大きな雑音や,知らない人に出会うことなどに対して恐怖を抱くことは日常的なことです。あるいは,歩き始めの子どもでは通常,愛着の対象から離れるのと同じように暗闇にも恐怖します。学童期になると,怪我をすることや,自然災害に対して恐怖を抱くようになります。さらに長ずると,その年齢に適した不安を経験するようになり,自分や周囲の人の健康に関しても心配をするようになります。以上のように,すべての子どもは何らかの不安や恐怖を持ちますが,それが通常の発達における標準と比べて頻度や強さが過剰であるときには特に注意が必要になります。
<子どもの不安障害の治療>
子どもの不安障害の治療ガイドラインでは,多面的で包括的な治療が推奨されており,そのなかには心理教育,認知行動療法,学校コンサルテーション,家族療法,力動的精神療法,薬物療法,などが含まれています。しかし子どもの不安障害の治療では,力動的精神療法や家族療法に関するエビデンスはなく,認知行動療法が最も推奨されている治療法となります。一方,薬物療法のエビデンスは蓄積されつつあり,子どもの不安障害の短期的な治療において選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitors: SSRI)の有効性が報告されています。SSRIは中等度から重度の不安障害に対して有効であり,不安障害によって心理療法に参加することができないとき,あるいは心理療法が部分的な効果しか得られないことがあるときに,薬物療法が有効であると考えられています。
<参考文献>
加藤晃司,ほか:小児・思春期‐不安‐.脳とこころのプライマリケア(下田和孝),pp.534-542,シナジー,東京,2010.
記事作成 加藤晃司(医療法人永朋会)