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臨床情報 「自殺再企図防止、自殺予防について」

「死にたい気持ちが出た時にどうしたらいいか?」
「自殺予防はどうするのか?」

私は東海大学病院所属時代、救命救急センターリエゾンに多くの時間を使ってきました。
そのため自殺再企図防止、自殺予防、は臨床研究、そして個人的にも大きなテーマの一つでした。

基本的なスタイルとしては、我々は医師にすぎませんから、病気を治すにはどうしたらいいかには答えることができても、どうしたら死なないですむかという質問に答えるには個人的な意見が多く入ります。

上記のような質問は、パーソナルな場面から、学術的な場面まで、考えることが多い質問でした。

そのうえで、私個人の意見に少し精神科のエッセンスを入れて考えてみると、

死にたい気持ちがでた時にそれをつなぎとめる何かというのは、一つには基本的信頼感という考え方があると思います。
基本的信頼感とは、生まれてきた瞬間からの養育者との関係から作られるものです。自分は存在していていいんだ、何も与えていないけど必要とされている、愛されているのだ、という感覚です。
この基本的信頼感が獲得できていない、もしくは薄い、と死にたい気持ちが出た時に、その人をこの世界につなぎとめている糸のようなものが切れ易いのではないかと思います。

他者から必要とされている、自分は存在していることだけでもいいんだと認められている、何かを与えなくても愛されている、このような感覚がなければ、人は非常に孤独です。
自分の中で生きる理由がなくなる、もしくは死にたい理由がある、そんな時にそれをつなぎとめるものがなくなってしまいます。

そうなると精神医学的には、基本的信頼感の獲得こそが、希死念慮が強くなった時に、それをとめることができる可能性を高めることができる何かだと思います。

不幸には養育者(多くは母親だがそうでないこともあるだろう)との関係がうまくいかなかった場合、幼児期に基本的信頼感を獲得できないことがあります。
このような環境のことを、精神医学では不認証環境と呼びます。
それでもその後の人生の中で出会う誰かによって、基本的信頼感を獲得することは可能だと思います。もちろん診療という場面においては、精神科医の主治医がその役割を担うこともあります。

何があったとしても自分が認められている、認証されているという感覚、を誰かによって与えられるような状況にしてあげることが死という感覚が自分に迫った時、それが一人の時に起こったとしても、この世につなぎとめる力になると思います。

それは精神科医である必要はないとも思っています。家族、親友、知人、上司、部下、恋人、教師、習い事の先生、だれでもその人の大人モデルにはなりえます。

自分が困っているなら自分が、自分の大切な人が困っているなその大切な人のまわりに、そういう人がいないのなら精神科医をはじめて訪ねてみてもいいのかもしれません。

難しいテーマです。我々は医師ですから、何らかの病気の診断と治療が主な仕事です。死の感覚が迫る時、その答えがなんらかの疾患の中にあることの方が少ないだろうと思います。
それでももしこのテーマに関して、精神科医としての考えを述べるのだとすれば、今回のような話になるかと思っています。

何か自分、もしくは自分の大切な人が困っている時、それを乗り越える時のヒントになればいいなと思い、今回はコメントを書かせていただきました。


医療法人永朋会 理事長
加藤 晃司