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臨床情報「成人期、広汎性発達障害(pervasive developmental disorders;PDD)の治療について」

今回は成人期、広汎性発達障害(pervasive developmental disorders;PDD)の治療についてです。発達障害に関しては個人的には一つ前の診断基準である、アメリカ精神医学会の診断統計マニュアル第4版(DSM-Ⅳ-TR)(American Psychiatric Association, 2000)の方が分かりやすいと思っているので、今回はこちらを使って解説します。

PDDについておさらいですが、PDDは発達のいくつかの面における重症で広範な障害として特徴づけられ,DSM-Ⅳ-TRでは自閉性障害,レット障害,小児期崩壊性障害,アスペルガー障害,特定不能の広汎性発達障害(PDDNOS)に分けられています。PDDとは,①相互性対人関係の質的な問題,②コミュニケーションの質的な問題,③行動・興味の限定的,反復的で常同的な様式,の3つの領域に障害があることで特徴づけられます。


① 治療の目標
 彼らはさまざまな理由により医療機関を受診することになりますが,治療者はどこに治療目標を置くのかを考慮しなければいけません。そして個々のケースによって異なりますが,発達障害の中核症状の根治は現段階では望めないため,彼らが発達障害を持ちながらも,それによって生じる本人や家族の困難さが日常生活上少しでも軽減されることが治療の主たる目標になります。

② 心理・社会的治療
 現時点で使用可能な薬物によって,個人差はあるものの不注意や衝動性を中心とした症状や,二次的に生じている抑うつなどの症状が多少なりとも改善することにより,本人の日常生活に対して間接的に良好な影響がある可能性は考えられます。しかし,PDDに対して薬物療法だけで治療することはなく,心理・社会的治療を併用することが重要です。
 まず成人期に受診するPDDに対して治療上もっとも重要なことは,正確な診断と,それにもとづく本人と家族に対する適切な告知と情報の提供です。すなわち,本人が感情交流の障害と興味・習慣への固執性といった基本的な病態像を正確に把握することで,対人関係のスキルの習得に加えて,今後予測される困難な場面の回避や苦手な状況で工夫するスキルを治療者と考えていくことが重要です。また,生育歴を振り返る作業を通じて家族が「育ち」を理解し過去の整理ができることで,本人との葛藤を少しでも改善することができ,結果的にお互い腑に落ちることができるのだと思います。そして家族が本人の病態を理解することで,家族の支持機能を強化することができるはずです。


記事作成:加藤 晃司(医療法人 永朋会)