臨床情報「成人期のADHD(注意欠如多動性障害)の診断について」
今回は成人期の注意欠如多動性障害(attention-deficit/hyperactivity disorder;ADHD)の診断についてです。発達障害に関しては個人的には一つ前の診断基準である、アメリカ精神医学会の診断統計マニュアル第4版(DSM-Ⅳ-TR)(American Psychiatric Association, 2000)の方が分かりやすいと思っているので、今回はこちらを使って解説します。
発達障害は,精神遅滞(mental retardation),学習障害(learning disorders),運動能力障害(motor skills disorder),コミュニケーション障害(communication disorders),広汎性発達障害(pervasive developmental disorders;PDD)に分けられます。また,発達障害であるこれらの障害に注意欠如・多動性障害(attention-deficit/hyperactivity disorder;ADHD)を含むことは,現在では専門家の間でほぼ一致した見解となっています。これらは中枢神経系の障害という生物学的基盤を有することから,子どもに特化している障害ではなく,これらを有する子どもは疾患の特性を持ちながら成人となり,さまざまな場面で医療機関を受診する可能性があります。
DSM-Ⅳ-TRによるADHD
ADHDとは,不注意,多動性,および衝動性を主症状とした障害です。診断のポイントとしては,B項目にあるように不注意,多動性,衝動性の症状のいくつかが,7歳未満に存在してそれらによって障害を引き起こしていること,さらにC項目にあるように症状が2つ以上の状況で認められること,さらにE項目にあるようにPDDを除外することが必要となります。しかし,成人のADHDに対する特別な定義は明記されていません。また,サブタイプとして,不注意優勢型,多動性・衝動性優勢型,混合型の3つを規定しています。そして,DSM-Ⅳ-TRでは不注意優勢型と診断するためには9つの不注意症状のうち6つを,多動-衝動性優勢型と診断するためには9つの多動-衝動性症状のうち6つを,混合型と診断するためには6つの不注意症状と6つの多動/衝動性の症状が存在することが少なくとも6カ月間持続する必要があります。また,DSM-Ⅳ-TRは現在,診断基準を完全に満たさない症状を持つ者を部分寛解と定義しています。つまり,子どもの時にADHDの診断基準を満たしていても成人になった場合にADHDの症状のいくつかは残存しているものの診断基準を満たさないことがあり,このことを認識することは成人のADHDを診断する上で非常に重要です。
ADHDの診断基準の表現には,「しばしば“エンジンで動かされるように”行動する」などのように,成人になってからの受診では7歳未満の情報を得られにくいのが難点です。さらに,ADHDの不注意優勢型に関しては,7歳未満に症状が明らかな障害は見られない場合が多いとする報告があり,幼児期早期には気づかれず,大学進学後や就職した後に症状が明らかになることがあります。また,成人の患者自身が子どもの時の行動を評価する自己記入式スケールを行う場合に,10-12歳以前の行動に対しては正確に評価することがほとんどできないとの報告もあり,不注意優勢型に関しては7歳未満という基準を厳格に適用すべきではないとする考えもあります。
記事作成:加藤 晃司(医療法人 永朋会)