病態水準って何か
病態水準って何か
まだ精神科の新人だったころ、東海大学の精神科医局で、松本英夫教授からの直接のレクチャーが当時の新人私を含めた3名に対して毎週定期的に行されていました。
今思えば、かなり贅沢な講義なのですが、当時はそんなもんなのかなと思っていました。当時の東海大学の精神科は、教授が松本先生にかわったばかりで、上級医師が少なかったので、教授みずからが新人教育をしてくれていたのだと思います。めちゃくちゃラッキーだったと思っています。
どこ業界でも、その業界のトップの人に、なるべく早く会うってほんとに大事です。自分との差が明確に分かるので、どんだけ努力したらいいのかが分かるので、めちゃくちゃ焦ります。ですが焦るから頑張れますし、目標地点が分かっているのと、分かっていないのでは、やはり分かっている方がモチベーションを維持することができます。
話それましたが、その講義のなかで、病態水準、という言葉をはじめて聞きました。
精神科にはいろんな病気があるけれど、病名とは別に、病態水準という考え方で、病気の程度を評価する必要がある、という感じのことです。
例えば同じうつ病でも、病態水準はそれぞれ異なりますということです。病態水準が軽いものから重たいものまで、さまざまある。
診断基準上はパニック障害という病名がつかなかったとしても、病態は非常に重く、精神病圏と考えられる、と判断する必要があります。
病態水準の程度によって、治療の仕方もかわってきますし、その先の展開の予想もかわってくるからです。
不眠みたいな軽めの症状で受診したとしても、病態水準が重たければ、その後、統合失調症のような重篤な疾患に展開する可能性すらあることを念頭に置く必要があるのです。
重篤な疾患は、急激に悪化することが多く、予測していたとしても治療が間に合わないことがあります。予測していなかったら、かなり後手後手になるでしょう。
ですから、診断基準上の病名だけでなく、病態水準を見極めておくことは精神科医療においては非常に重要なのです。
これは医学はさまざまな診療科がありますが、この2軸で判断した方がいいというのは、精神科独特だと思います。
大事なんですが、現代医学では科学的根拠を客観的データで検証ができていないものは、教科書からは消えていきます。
病態水準のような話も、私は新人の時からずっと叩きこまれているので、当たり前のことになっていますが、教科書にのっていない以上、一般化されている概念ではありません。
年がたつにつれ、伝承されていっていないものの一つなので、私はなんとか文章化して他の人にも見てもらえるように、論文にして形にしたりしていました。
論文としては通りにくいので、メインテーマを通りやすいものにして、その途中のくだりの中に、無理やり精神病圏の話をさりげなくいれたりしていました。たまにその部分だけ、削除して再提出してくださいとは言われることもあり、苦労しました。
病態水準の程度の判断は、生育歴の聞き取りの中で、判断する部分が多いです。もちろん現在の目の前にいる本人の状態や様子からも評価しますが、過去、早い段階から生育歴が悪ければ、現在までそれが蓄積し、連続性をもっている可能性があるので、過去の評価に重きを置くことになります。
表現が難しいのですが、「あきらめの連続」のような生育歴の方が、病態の重たい方には多いと私個人の経験から思っています。
これは私が思いついたのではなく、松本教授から、「あきらめの連続なんだよね」みたいな話をきいて、覚えているのだと思います。
人との出会いにおいて、本人があきらめないといけない、ことが多い、ということですかね。
最初の出会いとは、自分が誕生したとき、まだ見ぬ母親との出会い、であり、そこから家族、家族以外の他者、へと広がっていきます。
精神科やカウンセリングでの治療者との出会いも、その出会いの連続性の中にあるわけで、はじめましての時は結構緊張するわけです。
医療法人永朋会 理事長
加藤晃司