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臨床情報「小児期の注意欠如・多動性障害(attention-deficit/hyperactivity disorder;ADHD)の診断について②」

今回は、「小児期の注意欠如・多動性障害(attention-deficit/hyperactivity disorder;ADHD)の診断について②」です。


<子どものADHD‐生育歴をふまえた診断>
ADHDに限らず子どもの精神疾患の診断と治療に必要なことは見立てであり,現在の問題点から疾患を予測し仮説を立てていく必要があります。仮説を検証する作業が生育歴を追うことであり,その後の経過を見ていくことです。仮説を検証する過程で,生育歴や治療経過が見立てからずれた場合には,もう一度両者を振り返り,診断が合っているのか,生育歴が正確に聴取できているのか,他に影響を与えている因子があるのか,などを再検討し見立てを修正していく必要があります。見立てをし,仮説を検証するためにはADHDの生育歴の特徴を知ることが重要です。そこでADHDの生育歴の特徴について,本人,家族(特に母親)の2つの視点から考えてみます。

1.本人の生育歴の特徴
 まず,本人の生育歴について考えてみます。ADHDと診断した場合,乳児期より発達の問題を抱えてきており,定型発達児とは異なった育ち方をしてきたことが予想されます。本人の抱える困難さはADHDの中核症状である不注意,多動,衝動性のために生じることが多く,特に多動,衝動性が強い子どもは幼稚園や保育園の頃から集団行動での問題が出現することが多い。一方で中学生や高校生になるまで問題とならないケースとしては,多動,衝動性が目立たない不注意優勢型が多いと考えられます。「おっちょこちょいでおっとりしている子」として周囲から扱われており,小学校ではトラブルが目立たないことがあります。しかし,中学生や高校生になると環境がより複雑になり,また勉強も本格的に始まるため,不注意症状のために優先順位がつけられない,並列作業がこなせない,スケジュール管理が苦手である,などの点で学校でうまくいかないことが増えてくることがあります。このようにいずれのケースでも,多動,不注意,衝動性の症状のため幼少期からの失敗体験を繰り返している場合には自己評価が低下していることが多いと思われます。もちろん,失敗のパターンは過去からの連続性があり現在の問題点へとつながっていることもあります。その場合、失敗体験が増えることにより自己評価が低下しさまざまな症状が出現し精神科受診となることが多くなります。さらに,ADHDの疾患特性を両親が理解できていないために適切に本人をサポートできず,社会的支持者を得られないことでより大きな問題へと発展してしまう可能性があります。

2.親からみた生育歴の特徴
 次に,親,特に母親からみた生育歴について考えてみます。発達上の問題点を抱えながらADHDと診断をされずに育ってきた場合,そこでは両親と様々な葛藤が生じてきたことが予想されます。具体的には,ADHDの特性から幼少期から育てにくさがあり,またその特性による困難さが母親のしつけや教育の問題へとつながり,そのことで母親が祖父母や学校の教師から責められることが少なくありません。生育歴上でのADHD児と母親との関係は特徴的であり,多動,衝動性が強い子どもは3歳以前から症状が出現しており,母親は本人から目を離すことができない状態が続きます。また,指示が入りにくかったり,行動の切り替えができないことも多く,定型発達の子どもと比べると異なる困難さがあると思われます。「自分の子どもなのに考えていることが分からない」という不甲斐なさを感じ続けていたり,また「自分の育て方のせいだ」と考え,自分を責めがんばりすぎている母親も多いと思います。
要するにADHDを含めた子どもの精神疾患の場合,本人自身が発達上の問題を抱えているということと,それを前提とした親子の葛藤が現在まで存在している可能性があることを理解する必要があります。病院への受診が何らかの理由で遅れた場合,その葛藤の歴史が長く,そこに学校や親以外の対人関係の問題が深く関わり,問題がより複雑になりやすいと考えられます。


記事作成:加藤 晃司(医療法人永朋会) 専門:児童精神科