臨床情報「小児自閉性障害に対するaripiprazoleの有効性について」
今回は、「小児自閉性障害に対するaripiprazoleの有効性について」です。
私の論文より一部抜粋しています。
自閉性障害(autistic disorder: AD)の行動上の障害として興奮性があり,他者への攻撃性,意図的な自傷行為,かんしゃく,気分の易変性などの症状として出現する。これらの症状は著しい苦痛を伴い社会性やコミュニケーション能力を低下させ,学校や家庭での適応を悪化させてしまう。
risperidoneとaripiprazole(APZ)は小児(6-17歳)のADにおける興奮性(他者への攻撃性,意図的な自傷行為,かんしゃく,気分の易変性を含む)の治療に対してU.S. Food and Drug Administrationで承認を受け、その後日本でも適応を取得している。また,その他の第2世代抗精神病薬(second-generation antipsychotics: SGA)では,quetiapineやolanzapineがオープン試験において児童や思春期のADにおける興奮性に使用され有効性が報告されている。APZはSGAであり,ドパミンパーシャルアゴニスト作用を持ち他のSGAとは異なる作用機序を持つ抗精神病薬である。
我々は当院児童精神科外来を受診した患者の中でADと診断され抗精神病薬を投与した患者を対象とし,APZ群と非APZ群に分けて比較を行いAPZの有効性と安全性について検討した。
APZは他のSGAと比較して異なる薬理作用をもつ新規抗精神病薬である。APZはドパミン (D2, D3),セロトニン (5-HT1A, 5-HT2A, 5-HT2B)等の受容体に高い親和性を持ち,D2,5-HT1Aに対してはパーシャルアゴニストとして,また5-HT2A,5-HT2Bにはアンタゴニストとして作用する。APZは副作用として,心電図のQTc間隔延長,血中プロラクチン濃度,糖・脂質代謝,体重増加などに対する影響が少なく,また他のSGAと比較して,鎮静作用が少なく,コリン作動性ムスカリン受容体に対する親和性が低いと報告されている。本邦における臨床試験においてはhaloperidoleを対照とした二重盲検比較対照試験では,副作用発現率,錐体外路系副作用の発現率が有意に少なかった。またAPZ群では倦怠感,眠気,脱力感などの発現率もhaloperidole群よりも低かった。本研究では副作用発現率はAPZ群では16.7%,非APZ群では20.0%でありAPZ群において低かった。そして重篤な副作用の出現は認めず,副作用出現による治療中止もなかった。前投薬からの切り替えは3症例であり,2症例はRIS投与により過鎮静を生じ,1症例は口渇が生じたためにAPZへ切り替えを行った。切り替え後過鎮静,口渇,錐体外路症状は生じていない。また採血データで脂質や糖代謝異常は認めなかった。このことは,APZがドパミンD2パーシャルアゴニストであり,また他のSGAに認められるヒスタミンH1,ムスカリンM1,アドレナリンα1といった受容体への親和性は低いため過鎮静,糖・脂質代謝異常,などの副作用が少ないためと考えられる。
海外においてADの興奮性に対するSGAの有効性は多数報告されている。RISは二重盲検比較対照試験において有効性が報告されており,FDAに承認されている。また,OLZ,QTP,に関してはオープン試験において有効性が報告されている。APZに関しては海外においてADの興奮性に対してFDAに承認されており,二重盲検比較対照試験において有効性が証明されている。本研究においてもAPZ投与によりABC-Iのスコアが15.0±17.0(治療開始時)から8.3±9.4 (評価期間終了時)に著しく減少しており,統計学的に有意差を認めた(P=0.008)。しかしABC-Iスコアの改善率に関して非APZ群との有意差は認められなかった。
本研究は当院児童精神科受診した外来患者の中でADと診断され抗精神病薬を投与した患者をAPZ群と非APZ群に分け比較を行い,APZの安全性と有効性を検討した。現在までに本邦ではADに対するAPZの有効性,安全性についての報告はされていない。本研究の結果,APZ群において非APZ群との有意差は認められないもののすべての患者においてABC-Iの改善が認められた。副作用に関しては,APZ群では16.7%,非APZ群では20.0%でありAPZ群において発現率は低かった。そして重篤な副作用は認めなかった。ADの治療には薬物療法だけでなく本人に対する治療教育,家族のサポート,地域との連携などさまざまなアプローチが必要であるが,ADの興奮性に対して薬物療法を行うことは重要な治療法の一つである。APZは副作用が少ないため,児童,思春期のADに対しては安全性の面からも有効性が高い可能性があると考えられる。ADの病態や,ADの興奮性に対してAPZがどのような薬理作用を介し奏効するのかはまだ解明すべき点が多い。今後小児ADに対するAPZの有効性を証明するためには,症例の蓄積,さらには大規模な二重盲検比較対象試験が必要である。
上記論文でも記載しているが、小児自閉性障害のirritability(易刺激性)に対してはRISとAPZは日本で保険適応となっており、以前に比べると使いやすい状況にはなってきている。しかし小児分野の精神症状に対して保険が適応となっている薬剤はまだ少なく、国内での臨床試験の実施が必要な状況である。しかし現実的には臨床試験には多額の費用がかかり、最終的にプラセボとの優位差がでなければ保険適応に追加されることはなく、すでに発売となっている薬剤に対し小児に対しての臨床試験が追加で行われることは少なくなっている。
その場合海外でのエビデンスを参考にし、安全性、有効性の高いものから順次使用していくことになる。
薬物療法はリスクが0であることはない。しかし使う方がメリットがある場合があることも頭に入れておく必要がある。症状が自然軽快する可能性があるとしても、そのためにかかる時間も一つのコストとリスクであるため、あらゆる可能性を考慮した上で薬物療法を治療選択するかどうか判断する必要があります。
記事作成:加藤晃司(医療法人永朋会)
専門:児童精神科(日本精神神経学会専門医、日本児童青年期精神医学会認定医、子どものこころ専門医)