臨床情報「強迫性障害について②」です
今回は「強迫性障害について②」です。
前回も同じテーマはありますが、ちょっと視点を変えて書いてみます。
まずは総論的な話ですが、
強迫性障害 Obsessive-compulsive disorder
強迫性障害(Obsessive-compulsive disorder: OCD)は,何度も頭にうかぶ侵入的な考え,あるいは過剰な心配(強迫観念),不安を減少させるために駆り立てられる儀式(強迫行為),によって特徴づけられる。これらの強迫観念や強迫行為は苦痛を伴い,時間を消費し(1日に1時間以上),消耗するために通常の日常的な機能に障害が出る。小児における最も頻度の高い強迫のテーマは,汚染(ごみ,細菌,毒),自分や他人への害についてのこだわり,対称性,正確さ,順番,倫理的な行為への心配(罪を犯すことへの心配),幸運あるいは不運の数,性に関係するこだわりや心配,などである。また最も頻度の高い強迫行為のテーマは,きれいにする儀式(過剰に,手を洗う,風呂に入る,身だしなみを整える),確認する,数を数える,整頓する,触る,などである。以上の儀式によって一時的には不安は軽減するが,続けて再度生じる侵入的な考えやイメージのために,長期間不安が消えることはない。結果として,OCDの子どもは時間を消費し,強迫観念と強迫行為の絶え間ないないサイクルにはまってしまい,過度の苦痛を伴う機能的な障害をもたすことになる。
小児のOCDでは強迫症状が自我親和的であることが多く,そのため本人の治療への動機付けが乏しく治療に難渋することが多い。これまで小児のOCDの治療としては成人同様に精神療法,認知行動療法,薬物療法が提唱されてきたが,確固たる治療法は未だ確立されていない。現在のところ治療の第一選択は,CBTとSSRIを中心とする薬物療法である。児童,思春期のOCDに対してはさらなる理解や利用可能な治療法の向上が必要である。
という感じです。
しかし実際の臨床では典型的でないケースは多く認められます。
よくあるケースとしては
① 強迫症状なのか、こだわりなのか区別つきにくい
例えばアスペルガーやPDDNOSなどの広汎性発達障害(PDD)の一つの症状としてこだわりがあります。これはこの場所においてないといけない、着替える順番が決まっている、片付ける順番が決まっている、特定のものをさわったあとは必ず手を2回洗う、同じ服ばかり着る、などなど、こだわりがありそれが日常生活の大きな困りごとになっていることがあります。しかし例えば「ある特定のものを触ったあとは必ず手を5分間洗う」という主訴があった場合、それが強迫性障害の強迫行為としてでているのか、広汎性発達障害のこだわりとしてでているのか主訴を見ただけではわかりません。
もちろん生育歴を聴取し、心理検査をやり、それ以外の情報から診断をつけることはできると思います。ですが臨床上、OCDの強迫行為と、PDDのこだわりを区別する最大のポイントは、その行為に対して「自我違和性があるかどうか」、簡単な言葉で表現するなら、「やりたくてやっているのか、やりたくなくてやっているのか」ということです。OCDの症状であるならば自我違和性がなくてはいけません。つまり手を洗うことに対して、ばかばかしいことをやっている、こんなに何度も手を洗う必要なんかない、と自分で自覚しているだけにその行為をやるたびにつらい気持ちになります。意味ないと思っているのに、やらずにはいられないわけですから、皆さんも想像すると苦痛がわかるのではないかと思います。
反対にPDDのこだわりの場合は、自我親和性がありますので、やりたくてやっているわけです。そこには心的な葛藤は発生しません。やることでむしろすっきりするわけですから、楽しんでいるときさえあるかもしれません。
このあたりが見分けるポイントの一つになるかなと思います。
次のケースです
② 強迫症状が統合失調症の前駆症状としてでているケース
これは私個人としては非常にケースとして多く経験しています。そのため強迫症状が主訴になっていると、妙な緊張感をいつも感じています。もしかしたら統合失調症の前駆症状ではないかと常に考えながら治療しているので、ちょっとでも自我漏洩症状をにおわせるような発言があると、統合失調症へ進行していく可能性を常に頭の片隅におきながら診療をしています。もし自我漏洩症状がでてくるようなら、内服もSSRIではなくて抗精神病薬へ切り替えることを考えなくてはいけません。強迫性障害自体も病態水準が下がれば精神病症状が一時的に出る可能性もありますので、この二つの疾患を鑑別するのは難しいですが、統合失調症であれば早期治療が必要ですので、強迫症状が主訴の場合には②のケースを念頭においておく必要があります。PDDと違い統合失調症は進行性の疾患ですので、注意が必要です。
今回は①と②、強迫症状がでた場合に鑑別しなくてはいけないケースについてあげました。もちろん合併する場合もありますので、本来はさらに複雑になってしまいますが、強迫症状というのはシンプルな治療でよくならない場合には、このようなケースを想定できれば停滞してしまっている治療を打開することができるかもしれません。それは薬物療法に限らず、精神療法に関しても疾患と精神病態に合わせてやるべきことは変わってくるはずです。
記事作成:加藤晃司(医療法人永朋会)
専門:児童精神科(日本精神神経学会専門医、日本児童青年期精神医学会認定医、子どものこころ専門医)