臨床情報「子どもの不安障害について」①
今回は「子どもの不安障害について①」です。
小児・思春期における不安障害は有病率が高く平均5-10%であるといわれています。この時期の不安障害は,成人以後における気分障害や不安障害のリスクになり,さらに自殺や精神科への入院にも関係しているといわれています。このように小児の不安障害は重大な障害であるため,いくつかの心理社会的治療や薬物療法が開発されています。
子どもの不安とは
子どもの不安が通常の範囲なのか,一時的なものなのか,あるいは病的な状態なのか,を鑑別するためには,標準的な子どもの発達と比較する必要があります。そのためには,ある年齢や発達段階における標準的な不安を熟知しておく必要があります。すなわち,子どもの不安や恐怖は,成長するにしたがって変化していき,認知能力が発達することによって特定の状況において不安をコントロールすることができるようになり,さらにそのような体験をもとに異なる状況においても危険を認知し理解することができるようになるといわれています。
たとえ健常児であっても,幼小児期では,大きな雑音や,知らない人に出会うことなどに対して恐怖を抱くことは日常的なことです。あるいは,歩き始めの子どもでは通常,愛着の対象から離れるのと同じように暗闇にも恐怖します。学童期になると,怪我をすることや,自然災害に対して恐怖を抱くようになります。さらに長ずると,その年齢に適した不安を経験するようになり,自分や周囲の人の健康に関しても心配をするようになります。以上のように,すべての子どもは何らかの不安や恐怖を持つが,それが通常の発達における標準と比べて頻度や強さが過剰であるときには特に注意が必要になります。
子どもの不安障害の診断的特徴について
子どもの不安障害は幼児期から思春期に至るあらゆる時期に発生します。しかし不安障害の類型と,発達や年齢との関係はだいたい決まっています。たとえば,幼児期から児童期の早期にかけて不安や恐怖が生じることはまれではなく,分離不安障害も典型的にはこの時期に始まる障害です。また社会不安障害は,子どもが友人との関係へ関心が高まる思春期に発症のピークがあります。さらに全般性不安障害は典型的には児童期の中期に発症し,他の不安障害に伴って起こることが多いといわれています。いずれにしても,不安や恐怖は子どもに容易に生じる現象であり,発達にとってある程度,必要な生理的現象でもあります。そのため不安障害の診断には,不安や恐怖によって子どもに重大な苦痛や機能障害が起こっていることが不可欠となります。
DSM-Ⅳ-TR による子どもの不安障害
DSM-Ⅳ-TRには6つの不安障害が分類され,それぞれの分類の中核症状が記載されています。さらに発達上重要な点を理解するために,特に子どもに関連する診断上の留意点や注釈を与えています。たとえば,子どもの不安は,泣くこと,癇癪,よそよそしい態度,まとわりついてくること,などで表現されることがあると言及されています。また,特定の恐怖症,社会不安障害や強迫性障害に関しては成人と異なり,子どもは恐怖が不合理で過剰であるということを認識している必要はないとされています。最終的に,子どもの特定の恐怖症や社会不安障害では少なくとも6ヶ月間診断が持続している必要があるとされており,その理由は一時的な,あるいは正常発達で認められる恐怖・不安との誤診を最小限にとどめるために必要であると考えられています。
記事作成:加藤晃司(医療法人永朋会)
専門:児童精神科(日本児童青年期精神医学会認定医、子どものこころ専門医)