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臨床情報「境界性パーソナリティ障害(borderline personality disorder: BPD)の不認証環境について」

今回は、「境界性パーソナリティ障害(borderline personality disorder: BPD)の不認証環境について」です。

私が以前に書いた、思春期BPDに対する論文、「自殺再企図防止のための認知行動療法を含めた包括的アプローチ-思春期境界性パーソナリティ障害の1例をとおして-」から一部抜粋しています。


成人BPD例における自傷行為に対する治療の有効性が証明されているのはLinehanによって開発された弁証法的認知行動療法 (dialectic behavior therapy: DBT) のみです。一方,思春期症例では,患者の参加意欲,医療費用の問題,そして患者の認知的な限界からそのまま適用するのは困難であり,思春期BPD例に適合するようにDBTを修正する試みがなされています。すなわち修正として,①治療期間の短縮,②家族の関与を重視する,③技法を簡略化する,ことが提案されています。このような修正されたDBTによる思春期自殺行動に対する報告はあり,本邦においても、斉藤らは思春期BPDに対し修正されたDBTを用い治療を行い効果を認めており、思春期BPDへのDBTの応用と修正について報告しています。しかしこれらの報告の筆者らも述べているように医療費用や人的資源不足などの点から本邦での実施は多くの困難を伴います。

LinehanはDBT理論を構築するにあたって,invalidating environment (以下: 不認証環境) をひとつの要因として重視しています。この環境の特徴は,養育者がその子どもの個人的体験(信念,思考,感覚,感性)に対して一貫性のない不適切な対応をとり続けることです。こうした環境の中では,子どもの個人的な経験や感情表現は妥当な反応としてみなされることはないとLinehanは述べています。このLinehanの言うところの不認証環境が我々のケースでの自殺企図に至る社会的孤立感の形成過程に類似していると考えました。
生育歴を振り返る作業を行うことで,自殺企図,そしてBPDの成因につながる環境因子 (不認証環境) が患者の生育歴上に存在していることに気づき,親子の情緒交流の再構築を通じて家族による患者への支持機能を強化し,さらに不認証環境自体を改善できる可能性があると思います。このようなアプローチをする場合はDBTのようにマニュアルに基づかなくとも可能です。しかし,それだけでは不十分な場合には,認知の修正や希死念慮出現時の危機介入方法としてマニュアルに基づいた認知行動療法的アプローチが必要になる場合も考えられます。我々のケースでは、希死念慮出現時の認知行動療法的アプローチを行い、有効性を認めました。このことからも外来個人療法の中でDBTのスキルトレーニングの部分的利用は有効である可能性があると考えられます。


記事作成:加藤晃司(医療法人永朋会)
     専門:児童精神科(日本児童青年期精神医学会認定医、子どものこころ専門医)