臨床情報「パーキンソン病のせん妄治療について」
今回は、「パーキンソン病のせん妄治療について」です。
我々が大学病院救命級センターリエゾンを行っていた時に作成した論文より引用しています。
パーキンソン病の患者さんが入院後にせん妄出現し、その治療経過から考察をしています。
せん妄は軽度の意識障害を背景に,精神症状として気分障害,精神運動興奮,幻覚,認知機能障害,など多彩な病像を伴う意識変容を呈する病態です。せん妄は総合病院に入院した患者の約10%から30%に出現し,入院期間の遷延や死亡率を増加させる要因の一つです。特に,身体症状が重症な患者が多いICUではせん妄の頻度が高く,入院患者の20%から80%に認められると報告されています。
せん妄の治療は,従来はhaloperidol(HPD)などの第1世代抗精神病薬(first-generation antipsychotics)の投与が中心でしたが,近年は第2世代抗精神病薬(second-generation antipsychotics: SGA)の有効性に関する報告が増えてきており,特にrisperidone(RIS),olanzapine(OLZ),quetiapine,perospirone,blonanserinなどの有効性が報告されています。
せん妄に対するSGAの有効性
せん妄に対するSGAの有効性は多数報告されています。Hanらは12人のせん妄患者に対してRISとHPDの二重盲検比較対象試験を行い,有効性を報告しています。また,OLZ,QTP,perospironeに関してはオープン試験において有効性が報告されています。せん妄に対するBNSの有効性に関しては症例報告があるのみです。
Aripiprazole(APZ)に関しては症例報告やオープン試験において有効性が証明されています。Strekerらはオープン試験において14名のせん妄患者(18歳から85歳)を対象としてAPZを5-15mg/日の範囲で投与を行い,12名の患者においてせん妄症状の有意な改善を認めており,血糖値の上昇やQTc間隔延長は認めなかったと報告しています。
ICUにおけるせん妄に対するSGAの有効性・本症例の検討
一方,ICUにおけるせん妄に対するSGAの有効性に関する報告はほとんど認められていません。SkrobikらはICU入院中の73人に対してOLZとHPDをオープン試験において比較しています。その結果,せん妄に対する効果はOLZ投与群とHPD投与群で同等であったが,副作用の出現はOLZ投与群において有意に少なかったと報告しています。
我々の症例は救命救急センターICUにおいて出現したせん妄に対しAPZを投与し効果を認め、またAPZ投与開始後に副作用の出現も認めていませんでした。このことは,APZがドパミンD2パーシャルアゴニストであり,また他のSGAに認められるヒスタミンH1,ムスカリンM1,アドレナリンα1といった受容体への親和性は低いため過鎮静,糖・脂質代謝異常,QTc間隔延長などの副作用が少ないためと考えられ,ICUに入院している身体合併症が重度の患者に出現したせん妄に対して効果的であると考えられます。
記事作成:加藤晃司(医療法人永朋会)
専門:児童精神科(日本児童青年期精神医学会認定医、子どものこころ専門医)