臨床情報「遅発性ジストニア(tardive dystonia)」について
今回は「遅発性ジストニア」についてです。
私が書いた論文より引用しています。
遅発性ジストニア(tardive dystonia: 以下TD)は長期間の抗精神病薬の服薬に伴う錐体外路症状(extrapyramidal symptom: 以下EPS)のひとつであり,頻度は少ないが極めて難治性の不随意運動である。TDは抗精神病薬の投与を継続中に出現する痙性斜頸や躯幹部の側弯,捻転などの頸部や躯幹を中心にみられる持続的な筋収縮のことを指す。TDの病態には,ドパミン系,アセチルコリン系,ノルアドレナリン系,GABA系の異常など多様な神経伝達物質が関与すると推定されているが,現在もなお不明な点が多い。
TDは難治性で,本人の苦痛が極めて大きい。治療としては抗コリン薬,筋弛緩薬,clonazepamなどの有効性が報告されているが,一般的には予後不良で治療に難渋する場合が多い。
1. TDの生物学的要因について
TDの発症機序は今のところ不明であるが,いくつかが仮説として考えられている。西川15)はTDの病態仮説として,①ドパミン機能の亢進,②コリン機能の低下または亢進,③ノルアドレナリン機能の亢進,④GABA機能の低下,⑤その他の神経伝達物質の関与と神経細胞の変性・脱落,があると報告している。
2. TDの疫学
TDは抗精神病薬による治療の経過中に0.4~4%認められる1)。遅発性ジスキネジアに比べて,若年者,男性に多く,抗精神病薬による治療期間は比較的短いと報告されており,発生頻度は低いが,症状の持続時間が長く極めて改善例が少ないため治療が困難である6)。危険因子として,若年,男性,精神遅滞,電気けいれん療法の既往が指摘されている。
3. TDの診断について
Burkeら3)は抗精神病薬の初期投与時に生じる急性ジストニア,特発性または他の脳神経障害に続発するジストニアとは鑑別可能なTDなる概念を提唱した。それによれば,①慢性のジストニアの存在,②ジストニアに先行する抗精神病薬治療歴,③臨床的または検査所見によって原因がはっきりした持続性ジストニアの除外,④ジストニアの家族歴がない,を満たすものをTDと診断している。ただし③については持続性ジストニアの除外,血液検査所見の中で特に,TPHA,アンモニア,副甲状腺ホルモン(カルシトニン),セルロプラスミン,血清銅の異常がみられないことも診断基準に入っている。
4. TDの治療について
TDの治療で最初に行うことは,原因となっている薬物を使用継続する必要かどうか判断し,可能であれば抗精神薬を減量もしくは中止することである26)。もし投与継続が必要ならば,他の抗精神病薬に変更する。抗精神病薬の種類を変更する場合は,選択すべき薬剤としてclozapine, zotepine,thioridazine,sulpirideなどの低力価抗精神病薬またはrisperidone(以下RIS),OLZ,QTPなどの非定型抗精神病薬を選択する。抗精神薬の変更によってTDが改善しない場合は,治療薬の投与に移る。trihexyphenidyl大量療法,tiapride,dantrolene,clonidine,clonazepamとclozapineとの併用療法が挙げられている。
また最近ではTDに対してQTPやOLZ,RISなどの非定型抗精神病薬が奏効したという報告が散見される。従来の定型抗精神病薬から切り替えることでTDの改善を認めている。しかし逆にこれらの薬剤でTDを生じたという報告もあり,有効性については結論が出ていない。
記事作成:加藤晃司(医療法人永朋会)
専門:児童精神科(日本精神神経学会専門医、日本児童青年期精神医学会認定医、子どものこころ専門医)