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臨床情報「うつ病に対するタンドスピロン(セディール)の有効性について」

今回は、「うつ病に対するタンドスピロン(セディール)の有効性について」です。

私の作成した論文より一部引用して解説しています。


Tandospirone(TDS)は5-HT1A受容体アゴニスト作用を持つアザピロン誘導体に属する抗不安薬である。TDSは本邦では神経症や心身症の抑うつ気分や不安に対する適応がある。また,最近の研究では大うつ病性障害 (major depressive disorder: MDD)に対するTDSの増強療法の有効性やselective serotonin reuptake inhibitors (SSRI)治療抵抗性の不安障害に対するTDSの増強療法による抗不安効果の増強療法の有効性についても報告されている1。

TDSの薬理作用
 不安は視床下部,中隔野,扁桃体,海馬といった大脳辺縁系の神経回路網で形成され5-HTが関与している。中枢神経での5-HT神経は中脳,橋の縫線核から皮質,視床,扁桃体,海馬などに上行性に投射している。TDSは5-HT1A受容体アゴニスト作用を持つアザピロン誘導体に属する抗不安薬であり,縫線核に存在する5-HT1A自己受容体とシナプス後部の5-HT1A受容体に作用することで抗不安作用をもたらし,5-HT神経終末のシナプス後部の5-HT2受容体の脱感作に関与して抗うつ作用をもたらすと考えられている。また,ベンゾジアゼピン系抗不安薬で生じることがある筋弛緩作用,鎮静作用,依存形成,中止後の離脱症状などの副作用をほとんど認めず,禁忌もないことが利点である。

TDSの併用療法・PRXについて・本症例の検討
 MDDに対するTDSの併用療法についてはこれまでにいくつか報告されている。まず,Yamadaらは36人のMDDの患者をclomipramine(CMI)単独投与群(12人),CMI+TDS併用群(12人),CMI+diazepam投与群に振り分け6週間投与を行うオープン試験を行った。その結果,HDRS-17とHARS-14のスコアに各群の有意差は認められなかった。住吉ら7)はSSRIs,serotonin noradrenaline reuptake inhibitor(SNRI)で十分量を用いて,4週間以上投与を行い効果不十分であったMDDの患者19人を対象として,TDS( 60mg/日)の併用を行った。その結果,SNRIにTDSの併用を行った群ではHDRS-17のスコアが有意に改善し,SSRIに併用した群では有意差はないものの改善傾向が認められた。また,井上らは単極性うつ病に対しfluvoxamineとTDSの併用を行い奏効した1例を,張は治療抵抗性のMDDに対しTDS併用が奏効した3例を報告した。以上のような報告は認められるものの,MDDに対するTDSの有効性について確立したものはない。
 次に,不安障害に対するTDSの併用の有効性については,吉田らがSSRIとTDS 60mg/日の併用を行い抗不安効果が増強した報告,Nishikawaらによるラットの恐怖条件つきストレスモデルを使用し,SSRIとTDSの併用効果について検討し,著明な抗不安効果が得られた報告などがある。
我々の症例を検討すると、今回使用したPRXはSSRIの一種であり本邦においてMDD,パニック障害,強迫性障害,社会不安障害などに対する適応を持っているSSRIの一つである。SSRIの抗不安効果の発現にはシナプス間隙における5-HT濃度の上昇や5-HT2C受容体の脱感作が関与していると考えられている。これまでにMDDに対してPRXとTDSの有効性が報告されているのは症例報告のみであり,住吉らの研究ではSSRIにTDSを追加投与した群でHDRS-17は有意差が認められていなかった。住吉らの研究ではSSRIはfluvoxamine,sertraline,PRXの3剤を使用していたが,PRXの投与は2例にとどまっており症例数が少なく,PRXとTDSの併用について症例の経験を増やして検討していく必要性がある。

我々はPRXに治療抵抗性の不安を前景としたMDDにTDSを追加したところ不安症状と同時に抑うつ気分も著明に改善した2症例を経験した。本邦での不安を前景としたMDDに対するPRXとTDSの併用療法についての有効性の報告はなく,今後はさらなる症例の経験の蓄積が必要である。


タンドスピロン(セディール)は日本で開発された薬であり、5-HT1A受容体アゴニスト作用を持つ数少ない薬の一つです。
シナプスのセロトニン放出量自体を増加させる作用があり、通常うつ病に対して使われる、SSRI、SNRIとは異なる作用を持ち、副作用も少ないため増量療法としては選択しやすい薬となっています。
私は児童、思春期のうつ症状、不安症状に対しては軽度であればセディール単独で治療する場合もあります。内服治療は効果と副作用のバランスが大切です。リスクがない薬はありませんが、使う限りはメリットがデメリットを上回る必要があります。症状の程度と本人の困り感はそれぞれ違うと思いますので、症状が少ないから治療する必要がないわけでもないですし、重篤だから必ず内服が必要というわけでもないはずです。
治療ではそのあたりをトータルで考えて選択していく必要があります。


記事作成:加藤晃司(医療法人永朋会)
     専門:児童精神科(日本精神神経学会専門医、日本児童青年期精神医学会認定医、子どものこころ専門医)