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臨床情報「広汎性発達障害(pervasive developmental disorders;PDD)に合併する注意欠如多動性障害(attention-deficit/hyperactivity disorder;ADHD)の症状に対する治療について」

今回は、「広汎性発達障害(pervasive developmental disorders;PDD)に合併する注意欠如多動性障害(attention-deficit/hyperactivity disorder;ADHD)の症状に対する治療について」です。

私の作成した論文より一部抜粋しています。

なお当時はDSM-IV-TRの診断基準に基づいて作成しております。


広汎性発達障害(pervasive developmental disorders;PDD)は発達のいくつかの面における重症で広範な障害として特徴づけられ,Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision(DSM-IV-TR)では自閉性障害(Autistic disorder: AD),レット障害,小児期崩壊性障害,アスペルガー障害(Asperger’s disorder: AS),特定不能の広汎性発達障害(pervasive developmental disorder not otherwise specified: PDDNOS)に分けられている。PDDとは,①相互性対人関係の質的な問題,②コミュニケーションの質的な問題,③行動・興味の限定的,反復的で常同的な様式,の3つの領域に障害があることで特徴づけられる疾患である。そして,PDDは周辺症状として多動,不注意,衝動性といった注意欠如・多動性障害(attention-deficit/hyperactivity disorder;ADHD)の症状を合併することが多い。DSM-IV-TRのADHDの診断基準ではE項目にあるようにPDDを除外する必要があり,PDDとADHDの併存は認めていないが,実際の臨床上ではPDDにADHD症状が合併している症例は多い。FrazierらはPDDの83%にADHD症状を認めたと報告しており1),本邦ではPDDの67.9%がADHDの診断基準を満たしたと報告されている2)。これらのADHD症状は学校や家庭での適応を困難にする一つの原因となっていることがある。
PDDの中核症状に対する薬物療法の有効性は証明されていないが,学校や家庭での適応を低下させる可能性のある合併するADHD症状に対しては海外でmetylphenidate(MPD)やatomoxetine(ATX)の有効性が報告されており第一選択薬として推奨されている。その他の報告としては,降圧剤であるAlpha2-adrenergic agonists(clonidine,guanfacine)の有効性が報告されている。また抗精神病薬ではrisperidone,aripiprazole(APZ)がADの興奮性や多動性に対する有効性が報告されている。しかし本邦においては,metylphenidate,atomoxetineに関してはPDDに合併するADHD症状に対する有効性の報告があるが,その他の向精神薬に関する報告は認められていない。
APZはドパミンパーシャルアゴニスト作用を持ち他のSGAとは異なる作用機序を持つ抗精神病薬である。APZは小児(6-17歳)の自閉性障害(autistic disorder: AD)における興奮性(他者への攻撃性,自傷行為,癇癪,気分易変性を含む)の治療に対してU.S. Food and Drug Administration(FDA)で承認を受けている。APZはADを対象としたプラセボ対照二重盲検比較試験においてADの興奮性や多動を有意に改善している。また小児ADHDを対象としたオープン試験においてADHD症状を有意に改善している。現在までに本邦において小児PDDに合併するADHD症状に対するAPZの有効性については報告されていない。

Ⅰ.PDDに合併するADHD症状に対するSGAの有効性
海外においてPDDの興奮性に対するSGAの有効性は多数報告されている。RIS,APZは二重盲検比較対照試験において有効性が報告されており,FDAに承認されている9-12)。この二重盲検比較試験においてPDDの評価スケールとしてAberrant Behavior Checklist(ABC)を使用しており,ABCはサブスケールが興奮性,無気力,常同行動,多動,不適切な言動の5つに分かれている。RIS,APZは共にABCの興奮性だけでなく,多動のサブスケールがプラセボと比較として有意に減少していた。APZに関しては小児ADHDに対してオープン試験が行われており,ADHD RS-IVの有意な減少を認めている。しかしこのオープン試験では混合型と不注意優勢型のみ参加しており,多動性-衝動性優勢型に関しては評価できていない。

本症例について考察する。今回は当院児童精神科外来を興奮性を主訴に受診したPDD患者のADHD症状に対してMTX,ATXを投与したが効果不十分でありAPZを投与し効果を認めている。本症例ではADHD-RS-IVの減少を認めており,また副作用出現による中止もなかった。小児に抗精神病薬を使用する場合には過鎮静が問題となることが多いが,本症例では出現しなかった。このことは,APZがドパミンD2パーシャルアゴニストであり,また他のSGAに認められるヒスタミンH1,ムスカリンM1,アドレナリンα1といった受容体への親和性は低いため過鎮静、薬剤性の抗コリン作用、錐体外路症状が少ないためと考えられる18-20)。過鎮静は子どもの活動性を低下させ,学校や家庭での生活に支障が生じる可能性があるため鎮静作用の弱いAPZは児童,思春期のPDDの治療では使用しやすいと考えられる。次に,用量に関しては,本症例では3mg/日で効果を認めている。米国では小児ADの興奮性の治療に関しては,APZの開始用量 2mg/日,推奨用量 5-10mg/日,最大用量 15mg/日となっている。PDDに合併するADHD症状に対してはADの場合よりも少量で効果を認める可能性があるが,本邦でのエビデンスは不足しており今後も検討が必要である。また本症例では多動,衝動性よりも不注意は改善しておらず,APZは不注意に対する効果は不十分である可能性がある。
次にPDDの治療における薬物療法の位置づけについて考察する。PDDの中核症状である対人相互性の障害、コミュニケーションの障害,想像力の障害とそれに基づく行動の障害に対する治療の中心は療育であり、APZを含む抗精神病薬は直接的に有効ではない。しかし合併するADHD症状である多動,不注意,衝動性などの症状があると、本症例でも認められたように学校や家庭で指示が入りずらくなったり、友だちとのトラブルや順番を待てないなどのルールを守れないことから集団行動をとることが困難になることがある。特に衝動性が強い場合には友だちとのトラブルに発展しやすく、集団での不適応を起こすことが多い。集団での適応が困難になれば、当然学校や施設での療育はできなくなる。しかし,これらの症状が薬物療法で軽減し学校や施設で集団行動がとれるようになることで、本人に対する療育を含めた継続的な支援をつづけていくことができる。このようにPDDに合併するADHD症状に対する抗精神病薬の投与は、症例に合わせて適切に使用するのであれば学校、療育施設、家庭での療育的アプローチをスムーズに行うことができるようになり、PDDの中核症状に対する治療を継続して行うことができる。つまり、抗精神病薬の単独での使用は効果的ではなく、療育的アプローチと併用することでPDDの治療において有効であると考えられる。


現在のDSM-Vの診断基準ではASDとADHDの併存が可能となったため、ASDに合併するADHD症状に対し、ADHD治療薬を使用することはできる。しかしADHDを単独診断がつくケースと、ASD+ADHDのケースでは内服の効き方は異なると臨床上では感じています。ASD合併例では、いらいらや衝動性がADHD治療薬で逆に増悪することがあるため、注意が必要であると考えます。

記事作成:加藤晃司(医療法人永朋会)
     専門:児童精神科(日本精神神経学会専門医、日本児童青年期精神医学会認定医、子どものこころ専門医)