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臨床情報 「未成年の自殺企図の臨床的特徴」について

今回は、「未成年の自殺企図の臨床的特徴」についてです。


私の論文から一部抜粋しています。


19歳以下の自殺の原因・動機としては,1位:学校問題,2位:健康問題,3位:家庭問題となっている。自殺の手段としては19歳以下では男性,女性ともに縊頚がもっとも多く,次いで飛び降りとなっている。
海外においては未成年の自殺に関する観察研究はすでに多く行われており,さらに介入研究も進行している。現在までに未成年の自殺のリスク因子として,過去の自殺企図歴,家族の自殺歴や自殺企図歴,男性,身体的虐待や性的虐待,両親のメンタルヘルスの問題,希薄な親子関係,ストレスのかかるライフイベント,学校での問題,精神疾患の合併(気分障害,物質依存,外傷後ストレス障害),などが報告されている。今後日本は少子化がさらに進んでいくと予測される中で,10年以上未成年の自殺が減少していないことは大きな社会的問題である。このような現状に鑑みると,未成年の自殺企図の臨床的特徴を抽出し,自殺予防や自殺再企図防止につなげていくことは非常に重要である。
我々の所属していた高度救命救急センターでは,自殺企図で入院となった全例に対して精神科に依頼がある。現在までに自殺企図患者に対する疫学研究や介入研究を行い,自殺企図患者の特徴やリスクファクターの抽出,新しい治療法の試みなどを通じて,再企図防止のためのアプローチを行っている。
今回筆者らは,自殺企図で当院救命救急センターに入院となった患者を対象として,未成年における自殺企図の頻度と臨床的特徴について後方視的に調査を行った。

救命救急センターに入院となった自殺企図患者を未成年群と成人群とに分けて解析を行い,未成年における自殺企図の頻度と臨床的特徴について調査を行った。自殺企図で入院となった患者337名の中で26名(7.7%)が19歳以下の患者であった。女性が未成年群において有意に高かった。一方で,身体疾患の既往,過去の自殺企図歴は未成年群で有意に高かった。重症患者は未成年群において有意に少なかった。
本研究では女性の割合が92.3%であり未成年群で有意に高かった。海外での報告と比較すると,Beautraisらの129名の自殺未遂者(13-24歳)を対象とした研究においては女性の割合は54.3%であり男性より多かった。Chiouらは台湾において急性期病棟に入院となった未成年患者109名を対象として後方視的研究を行い,自殺企図で入院となった患者は28名であり女性は21名(75.0%)であった。このようにこれまでの海外での先行報告においても未成年の自殺企図患者の中で女性の割合は高く,本邦でも同様の結果であった。
自殺企図手段に関しては,過量服薬が最も多く76.9%であった。Beautraisらの報告においても過量服薬が76.7%と最も多く,本邦と同様の結果であった。また身体的な重症患者は成人群で有意に多く,ICU入院期間,全入院期間共に有意さは認めないものの長かった。成人は未成年と比較すると自殺企図手段として過量服薬が少なくその他の自殺企図手段が多かった。本研究の結果から,成人は未成年より重篤な自殺企図手段を選択しているために入院時の身体症状が重症化しやすく,入院期間が長くなると考えられる。成人期の自殺企図は身体的に重症となることが多く,より自殺既遂につながる可能性が高い。未成年群の自殺企図歴は本研究では65.4%であり,成人群と比較すると有意に高い。自殺企図歴は未成年の自殺既遂の最大のリスクファクターであり,この時期に再企図を防止することができれば今後の自殺既遂のリスクを下げることができる可能性があるため未成年における再企図防止のアプローチは非常に重要である。
これまで研究で,気分障害,物質関連障害,物質依存,行為障害,不安障害,外傷後ストレス障害などの精神疾患が未成年の自殺のリスク因子であると報告されている。しかし本研究においては,適応障害が57.7%と最も多く,次いで不安障害(26.9%),気分障害(15.4%)の合併が多かった。自殺未遂者を対象としたChiouらの報告においても,うつ病性障害は50.0%に認められていた。本研究における自殺企図の契機が未成年群においては65.4%に認められており,成人群(45.0%)よりも多く,きっかけとなる環境因子が存在している。これらの結果から考えると,本邦における未成年の自殺企図は適応障害が多く,また環境因子の影響が大きいため,自殺企図後に合併する精神症状に対する精神科医療における治療だけでは再企図防止には不十分であると考えられる。それは精神科既往歴が未成年群で73.1%と成人群と同等であり,もともと精神科での治療を受けていた患者が自殺企図に至っていることからも明らかである。そして,未成年群の自殺企図の心理・社会的要因として成人群との有意差は認めないものの,家族問題が42.3%とより多かった。本研究における家族の問題とは,本人のみならず親(養育者)からの生育歴の聴取から明らかとなったものであり,自殺企図直前の問題だけでなく幼少期からの連続性がある問題としてとられている。これらの自殺企図に至る生育環境については未成年の自殺企図例を扱った著者らの先行報告で詳細に記載している。海外においても,希薄な親子関係,社会的支持機能の低さ,虐待などの否定的なライフイベント,などが未成年の自殺のリスク因子であると報告されている。このように未成年の自殺企図は家族との問題がその背景に存在していることが多いため,再企図防止のためには本人に対する治療だけではなく,家族へのアプローチが必要である。もちろん心理・社会的問題には恋愛問題,対人問題,学業問題なども含まれており,未成年の自殺企図のその後の治療は多くのケースが精神科医療でのアプローチのみでは不十分であり,学校,児童相談所,地域の福祉センターなど他施設との連携が必要である。なお,本研究における心理社会的問題要因の把握に関しては,何らかの客観的評価尺度を用いたわけではなく推測の域を出ない事は限界の一つである。

まとめ
 救命救急センターに入院となった自殺企図患者の7.7%が19歳以下であった。未成年の自殺企図患者は女性,過去の自殺企図歴の割合が高く,自殺企図手段は過量服薬が最も多かった。自殺企図時に合併する精神疾患は適応障害が最も多かった。そして入院時の身体的重症度は成人に比べると低く,入院期間は短かった。また自殺企図の心理・社会的要因として家族問題が最も多かった。未成年の自殺予防,自殺再企図防止のためには,未成年の持つ臨床的特徴を理解して精神科での治療を行う必要がある。さらに,合併する精神障害に対する治療だけでなく,未成年の自殺企図の背景に存在する心理・社会的要因を考慮したうえで本人,家族へアプローチ,地域との連携を含めた包括的な介入が必要である。今後は未成年の自殺企図の臨床的特徴をさらに明確にし,そのうえで自殺予防,自殺再企図防止のための介入研究を行う必要がある。


記事作成:加藤晃司(医療法人永朋会)
     専門:児童精神科(日本精神神経学会専門医、日本児童青年期精神医学会認定医、子どものこころ専門医)